目指すはオンラインライブ業界の「武道館」──VARK ARENAが切り拓く、エンタメの未来

コロナ禍のなか、急速に普及した「オンラインライブ」は、リアルにはない、新たなエンタメの可能性を切り拓きました。当初はリアルの代替だったオンラインライブですが、今後もその価値は維持・発展していくと見られています。アフターコロナ時代におけるオンラインライブの価値、そのなかで電通グループと株式会社VARKが共同開発したメタバース空間上のフェス会場「VARK ARENA(バークアリーナ)」は、いかに企業のマーケティングに寄与していくのか。過去の事例を振り返りながら、メタバースを舞台に展開される「バーチャルライブのこれから」について、両社が意見を交わしました。

<座談会メンバー一覧>
杉本 豊/株式会社VARK 執行役員 COO
佐々木 貴郁/株式会社VARK ディレクター
布村 壮太/電通イノベーションイニシアティブ シニア・マネージャー
田端 剛治/電通イノベーションイニシアティブ シニア・マネージャー

アフターコロナ時代も続く、オンラインライブ需要

布村:今回のテーマは、「バーチャルライブのこれから」です。まずは前提の部分ですが、三菱総合研究所が2022年に発表したリポートによれば、メタバースの国内市場は、2025年に4兆円程度、2030年には約24兆円にまで拡大すると言われています。そこには当然、今回のテーマであるライブなどのエンタメも含まれるでしょう。コロナ禍のなかで、オンラインライブという新しいスタイルが浸透しました。現在はコロナも収束傾向にあり、リアルのイベントも増えています。しかし今後も、オンラインライブのニーズは存在し続けると私は考えています。

杉本:そうですね。弊社はバーチャルライブプラットフォーム「VARK」の開発・運営を手掛けていますが、「オンラインライブやバーチャルライブがコロナとともに消滅する」という印象はまるでありません。「メタバース空間でしかできないバーチャルライブのカタチ」をさらに模索していき、オンラインライブならではの付加価値を強化していくことが重要なフェーズに入ったと感じています。

布村:VARKさんは、メタバース上で開催する「バーチャルライブ」の先駆者であり、過去には大規模な同時接続や、来場者約5万人規模のメタバース上のイベント開催実績もあります。「会場のキャパシティが無限大」であるというのも、メタバース空間で開催するメリットのひとつですよね。

佐々木:はい。定員という点では、理論上は100万人でも参加可能ですし、リアルでは不可能な表現=演出も可能です。今後はリアルイベントとは別物のエンタメとして、バーチャルライブは独自の進化を遂げていくと考えています。

布村:昨今のVTuber人気は、目を見張るものがあります。VTuberと同じ空間を共有できるのは、基本的には“バーチャルだけ”というのも、バーチャルライブが今後も求め続けられる理由のひとつと言えそうです。

杉本:仮想空間でしか“会えない”以上、ファンはその機会を求めますよね。

バーチャルといえど、「ライブイベント」なので、そこに体験価値がなければファンの方も出演される方も満足いただけるものにはならないと考えています。もちろん満足いただけなければユーザーは離れていってしまうので、いかにすれば出演者、ファンの方双方の求める「価値」を提供していくことができるかという部分を大切にしています。そのなかで今回、新しい価値を提供できるかもしれない「VARK ARENA」の共同開発への挑戦はとても心が躍りました。

布村:バーチャルライブといえど、そこには舞台があり、演出があり、チケット販売をはじめとした運営があります。実は、制作・オペレーション自体はリアルイベント同様に多く、参加するハードルは低いけれど、実施のハードルは高い、という課題が存在していました。しかし御社のプラットフォームは、柔軟にカスタマイズできるテンプレートを組み合わせて活用できる。その点に魅力を感じました。

杉本:ありがとうございます。

出演する方、ご覧になられるファンの皆さんが喜んでいただくために、クオリティの高いライブであることは不可欠です。しかしイベントものは、「実施したい時期」や「予算に制限」があることも多く、「スピーディー」かつ「コストコントロール」が可能な形でバーチャルライブを実現できることは重要だと考えていました。その思いが、今回の共同開発にもつながったというのは、素直にうれしいですね。

布村:こうして誕生した、メタバース空間上のフェス会場「VARK ARENA」は、イベント会場の設計・制作やライブ制作を共通基盤化することで高いクオリティを維持したまま、コストを圧縮したイベント実施を可能にしました。

杉本:取り組み自体は始まったばかりですが、多くのパートナー様とご一緒していくことで、バーチャルイベントの可能性を、まだまだ拡張していけるのではないかと、非常に期待しています。

布村:今後は「VARK ARENA」を通して、音楽やアニメなど幅広いコンテンツのXRトランスフォーメーションを推進したり、新しいバーチャル体験・ライブ体験を創出したりすることで、バーチャルエンターテイメント事業のさらなる発展を目指していきたいですね。

VARK ARENAで開催。「テレ東バーチャル音楽フェス」

布村:2022年11月に、テレビ東京様が毎年開催している「テレ東音楽フェス」をメタバース空間上で実施した「テレ東バーチャル音楽フェス」。この会場に「VARK ARENA」を選んでいただきました。ここからは同フェスのコンテンツを振り返りながら、「バーチャルライブの魅力」について、考えていけたらと思います。

田端:この取り組みでは「テレ東音楽祭2022冬」に出演いただいたリアルアーティストの方も登場するなど、リアルと組み合わせることで、コンテンツのリッチ化、リーチの最大化を実現できたことも特徴のひとつです。結果、「テレ東バーチャル音楽フェス」は4日間に渡って開催され、大変ご好評をいただきました。

「テレ東バーチャル音楽フェス」が開催されたイベント期間中の「VARK ARENA」の外観

コンテンツ1:アバターによるトークセッション

布村:このフェスでは、「VARK ARENA」内に複数の会場を用意し、さまざまなコンテンツを提供しました。どれもメタバースの魅力を活かしたコンテンツだったと思います。たとえば、人気タレントと女子アナウンサーのトークセッションもそのひとつではないでしょうか?

杉本:そうですね。ひろゆきさんが海外での収録となる可能性あり、その場合はリアルでトークセッションしようとすると、ひろゆきさんだけモニター越しのオンライン出演になってしまいます。それを3Dアバターを使用したバーチャルライブにしたことで、出演者が揃って同じ舞台に登場する、という演出が可能になりました。

布村:トークセッション中は、リアクション機能を使って、拍手や歓声でトークを盛り上げるユーザーがいたり、ライブ本編では今回のイベントのためだけに用意された無料のギフティングがたくさん活用されていましたよね。

杉本:そうですね。オリジナルのギフトには、スポンサーロゴを投げ込むものもあり、参加されたユーザーの方にもインタラクションを伴う形で企業ブランドと新しい接点をつくることができたのではないでしょうか。

布村:ギフティングなどインタラクションの仕掛けがあると、ユーザーの熱量が可視化されるので、バーチャルライブと親和性の高いコンテンツがわかりますよね。本トークセッションで感じたのは、出演者がアバターであっても体験価値はしっかり提供できる、ということです。大切なのは、バーチャル空間であることをいかに活かすか? だと思いました。

コンテンツ2:リアルアーティストによる、360度動画のライブ

田端:地上波音楽番組「テレ東音楽祭2022冬」との連動企画として、同番組にも出演した3組のアーティストのバーチャルライブも開催しました。360度視点の配信動画は、リアルでは味わえないスペシャル感がありましたよね。

リアルアーティストによる360度動画を配信した「コンサートホール」の外観。ユーザーはホール周辺も含め、「VARK ARENA」内を散策することもできる

田端:出演したのは、「=LOVE」、「Da-iCE」、そして「モーニング娘。’22」の3組というのも豪華でした。

杉本:カメラが置かれた位置から360度、ユーザー自身が好きな場所を見ることができます。普段見ることができない角度や視点を楽しめることから、ユーザーからも大変好評でした。テレビでは決められたカメラワークを楽しむわけですが、360度動画やカメラスイッチングができるバーチャルライブでは、自分の推しをひたすら追いかけることも可能です。自由なカメラアングルを楽しめるからこそできる提供価値だと感じています。

田端:楽屋の配信動画も非常に好評でしたよね。

佐々木:カメラの周りをメンバーが囲んでする楽屋トークですよね。ユーザーからすると、まるでメンバー全員が自分に向かって話しているような、贅沢な体験を提供することに成功しました。Twitterにもユーザーの喜びの声が溢れており、そこに感動があった証だと、うれしく思いました。

田端:テレビと連動した、豪華アーティストによるバーチャルライブというのは、テレビ東京様だからこそ提供できたコンテンツでしたよね。ここでは「テレビでは味わえない特別感」というのが、喜ばれた要因だったと思います。

コンテンツ3:バーチャルアーティストによる、バーチャルライブ

布村:バーチャルアーティストによるライブも人気でした。VTuberグループ「ホロライブ」のメンバー、YouTubeチャンネル登録者数160万人を誇るエリート巫女アイドル「さくらみこ」さんをはじめ、こちらも非常に豪華なラインナップとなりました。どのライブも、多くのギフティングが飛び交っていたことが印象的でした。

杉本:ファンの人たちは、推しのVTuberのシンデレラストーリーを、一緒に追いかけているようなところがあると思います。高頻度の配信や毎日のSNS投稿を通じて応援していく中で、有名になって、ついにバーチャルライブに出演する。そうなると、自然と応援に熱が入りやすいとも思います。そんなファンとタレントの関係性があるからこそ、リアクション機能が活用され、バーチャルであっても熱量がある会場になるのだと思います。Vtuberはこの側面が強く出る特性はあると思いますが、リアルなアイドルの方やアーティストの方もそれぞれストーリーがあるので、その軸をとらえたバーチャルライブを構成できれば熱量の高い会場を作ることが可能だと思います。

布村:普段の配信では2Dなのに、バーチャルライブでは3Dの推しに会えるというのも、スペシャル感になっていますよね。

杉本:その点は、リアルアーティストの方とはまた違った、ライブにおける特別感になっていると思います。やっぱり2Dの配信より、3Dの方が配信するハードルも高いですから、「会える」(同じ空間で同じ時間を共有できる)機会というのは、貴重です。

布村:このコンテンツを通して、VTuberとバーチャルライブの親和性の高さを、あらためて実感する機会になりました。

「テレ東バーチャル音楽フェス」のタイムスケジュール。4日間に渡って、「VARK ARENA」内でさまざまなコンテンツが展開された

広告・コマース機能も搭載する「VARK ARENA」

布村:「テレ東バーチャル音楽フェス」の会場となった「VARK ARENA」には、コンテンツ展開以外にも、広告・コマースという機能もありますよね。簡単にご説明をお願いしてもいいですか?

杉本:はい。3D広告やアバターアイテム・デジタルグッズの販売も可能です。3Dによる表現を活用することで、よりインタラクティブで拡張性の高い広告掲出ができます。たとえば、会場内に、3D広告モニュメントを設置したり、メタバース上の会場内のディスプレイに動画広告を配信したり、一風変わったところでは、特別仕様のカラオケルームを設けることも可能です。

「VARK ARENA」で実施可能な広告展開の例

布村:コマースについても説明してもらえますか?

杉本:アバターの配布・販売、ギフティングアイテムの配布・販売などが可能です。どちらも、ここでしか買えない“限定感”を創出しやすく、体験価値の向上にもつながると考えています。

「VARK ARENA」で実施可能なコマース例

目指すは、オンラインライブ業界の「武道館」

布村:「VARK ARENA」は、多数のテンプレートが用意されているので、コストを圧縮してイベントを実施できるのはもちろん、多数のコンテンツ展開や広告・コマース展開までできるのが特徴です。さらに、われわれの蓄積したノウハウも一緒に提供することで、初めてのバーチャルライブでも企画から実施まで、ワンストップでサポートさせていただけることも強みのひとつだと考えています。

杉本:そうですね。電通グループさんと組むことでの相乗効果は、いくつもあると思います。スポンサーの獲得力や出演者のブッキング力。テレビ東京様のようなメディアとのリレーションの強さからくるコラボレーションの実現力などなど、組ませていただくことで、イベントの幅も深度も上がると感じました。

田端:「VARK ARENA」のように、メタバース空間上で展開するフェス会場を、広告会社が運営しているケースはありません。だからこそ、私たちの強みをコンテンツ制作だけでなく、会場のブランディングにも活かしたいと考えています。

布村:目指すは、メタバース空間上の「武道館」。バーチャルライブの聖地になることですよね。「メタバースでイベントやるならVARK ARENAだよね」と言われるような、そんな会場にしたいという夢があります。

杉本:すごくわかります。現在、ネット上のバーチャルライブにおける聖地は、まだ存在していません。「VARK ARENA」が初めての、聖地と呼ばれるような場所になれたら、こんなにうれしいことはないですね。

布村:ぜひともに力を合わせ、夢を実現しましょう! 本日はありがとうございました。

<プロフィール>

杉本 豊
株式会社VARK 執行役員 COO。
広告代理店入後、複数のメガベンチャーでアライアンスやPMと様々な役割に従事。その後、複数のベンチャー企業で執行役員などを歴任し、2021年よりVARKへ入社。初のリアルタレント3Dライブ、メタバース空間のリリース、などの成果を上げ現在はCOOとして事業、組織双方を管轄。

佐々木 貴郁
株式会社VARK ディレクター。
新卒でゲーム開発会社へ入社後、企画としてソーシャルゲームの開発に従事。その後、VARKへ入社し、現在はディレクターとして企画からリリースまでの全般を担当し、数々のハイクオリティなバーチャルライブを手掛ける。

布村 壮太
電通イノベーションイニシアティブ シニア・マネージャー。電通入社後、最先端のアドテクを活用した分析・コンサルティング業務や営業を経た後、ITサービス企業にてプラットフォーマーアライアンス、新規事業開発に従事。2022年6月よりDIIに参加、VR/AR、メタバース領域を担当。

田端 剛治
電通イノベーションイニシアティブ シニア・マネージャー。スポーツ局を経て、プラットフォームビジネス局、事業共創局にて、主にクライアントのデジタル事業開発を担当。2022年2月よりDIIに参加。現在はXR・メタバース領域での事業開発、及びゲーミング領域の事業開発に従事。