社会を変革する、Web3時代のトラスト──OOLオープンフォーラム「ブロックチェーン/NFTとトラスト」

社会を変革する、Web3時代のトラスト──OOLオープンフォーラム「ブロックチェーン/NFTとトラスト」

by 鈴木 淳一

2013年、沖縄を拠点に設立された「沖縄オープンラボラトリ(OOL)」は、次世代型ネットワーク技術やクラウドコンピューティングなどの次世代ICT基盤技術の融合を推進する、世界的にもユニークな国際研究開発機関です。

同ラボのオープンフォーラム「ブロックチェーン/NFTとトラスト」が、2025年10月23日に開催。Web3.0時代の基幹技術であるブロックチェーン/NFTを用いて、モノ、取引に係るデータ流通機構にトラストを付与する仕組みやユースケースなどについて、知見が共有されました。

本フォーラムは、最初に講演(講師:電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ 鈴木淳一)。次に、有識者によるパネルディスカッションが展開されました。
<Web3時代のトラストとは何か>を知る足掛かりとなるその内容を一部、本稿ではお届けします。

<パネリスト>
・鈴木淳一(電通イノベーションイニシアティブ)
・藤井隆嗣(シビラ株式会社CEO)
・辻川公章(アラクサラネットワークス株式会社執行役員)
・モデレーター:comugi(リサーチャー・編集者)

利用ハードルを劇的に下げる「コントラクトウォレット」

シビラ株式会社CEO 藤井隆嗣(以下、藤井):NFTは、デジタルデータの唯一性、今まで証明できなかったものを証明することで、データを流動させて資産性まで昇華できるという特徴を有しています。2021年には、NFTの取引総額が4兆円超(409億ドル)に到達 し、大きな話題となりました。

最近では、トレカのNFT化は、世界的に注目されており、梱包も送料も不要になるというメリットもあり、デジタル証券市場は拡大し続けています。
野村ホールディングスの調査によれば、日本国内においてデジタル証券市場は2024年度に単年度で464億円の発行があり、累計発行金額は1682億円 に達しています。
そしてもうひとつ、NFTには、アプリケーション横断の活動履歴の証明という非金銭的な価値があります。

NFTは、Web3の一番の特徴とも言える「ウォレット」に蓄積されていきます。
しかしウォレットや NFT を誰もが使用するには、まだまだハードルがあります。
これを弊社は技術的に解決しました。
具体的には、スマートコントラクトというプログラムベースのウォレットを構築することで、
ウォレットを意識することなく、利用することが可能になります。
これを「コントラクトウォレット」と言います。

これによって、暗号資産の管理はもちろん、
企業主催のイベント参加者に限定NFT(デジタルノベルティ)を配布し
後日NFT を介したコミュニケーションといったマーケティング活動や、
既存アプリの WEB3 化も容易に実施できるようになります。

NFTの配布によって、企業視点では
これまでわからなかった「誰が見たのか/来たのか」がアプリケーション横断で把握できるようになり、
ユーザー視点ではあるアプリケーションで構築してきた与信をアプリケーション外で活用できるようになるなど、双方にメリットが生まれます。

ほかにもWeb3の世界の実現のためには、暗証番号を忘れてしまった場合に、再ログインできなくなってしまう強固なセキュリティの問題や、高度化され続ける詐欺サイト問題など、一般ユーザー参入における、いくつもの複雑な課題が存在しています。その課題を解決できるのもコントラクトウォレットの強みです。

リサーチャー・編集者 comugi(以下、comugi):ありがとうございます。続いて、辻川さんからも自己紹介を兼ねて、現在の取り組みについてご紹介をお願いします。

NFTで証明する、半導体のトラスト

アラクサラネットワークス株式会社 執行役員 辻川公章(以下、辻川):沖縄オープンラボラトリで、「トラストネットワークプロジェクト」というプロジェクトを立ち上げて4年が経過しました。このプロジェクト誕生のきっかけもNFTが話題になるなかで、ブロックチェーンの存在を知ったことです。

たとえば、サンドウィッチのラベルには原材料が記載されています。
それを見て、アレルギーのある方は特定の食材を避けることができます。
一方で、弊社も扱っている、企業ネットワークやデータセンターのネットワーク機器やIoT機器(半導体)には、ラベルがありません。
ですから、どの国で生産されたのか、どんな部品を使っているのかといった情報は一切不明。
そこでトラブルが起これば大問題になります。
もし“ラベル”があれば、その問題を解決できるだけでなく、国産のインフラへの信頼性向上に寄与するのではないか。
そのラベルをNFTで代替しようというのが、本プロジェクトの活動趣旨です。
しかしラベルのコストは誰が負担するのかなど、問題は山積みです。
たとえば「何を持ってこの製品はトラストである」と定義するのかも困難です。そこで現在は、そうした要件を管理できるようになるフレームワーク、メタフレームワークを定義して、国際標準にしていく取り組みを進めています。

こちらをご覧ください。

左側にある工場の絵、これは半導体の工場です。
半導体はさまざまな工程を経て、最終的に製品に組み込まれ、出荷に至ります。
しかし現状はその部品すべてを知るためのラベルはありません。どの工場で作られたのか、ソフトウェアは最新のものにアップデートされているのかはわかりません。
特に基本的な動作を制御するファームウェアが古いまま出荷されると事故につながります。
その製造責任というのは、最後までついて回るものであり、製造事業者が半永久的に負い続けるものです。
ですが、その製造過程は複雑で、部品も数百にもおよびます。それらをすべて管理することは容易ではありません。

その管理を私たちは「プロビナンス(provenance)」と呼んでいます。
直訳すると<来歴>という感じでしょうか。
そしてもうひとつ、製品の中に何が含まれるのか、中身の透明性を示す「ペディグリー(pedigree)」という<血統書>のようなものも管理することを目指しています。
そのために、NFTが参照するためのデータを提供してください(預けてください)と、各事業者にお願いするわけです。

問題は、データの主権は誰にあるか

comugi:企業としても、データの主権は守られるのかどうか気になるところですよね。

辻川:データを預けて、勝手にアクセスされたら困る。データの主権は守られるのかという意見が当然、事業者の方からはあるわけです。その課題にNFT、ブロックチェーンであれば、応えることができるであろうと考えました。つまり、NFTありきではなく、あくまで課題ありきでスタートしたプロジェクトなわけです。

ダイアグラム

AI 生成コンテンツは誤りを含む可能性があります。

Web2におけるデータの管理は、中央集権型です。しかしGAFAがそれを意図して進めたというよりも、市場が経済効率を追求していった結果、集約されていったような印象を受けています。

本プロジェクトの理想は、Web3的な分散型ですが、サービスとして展開する以上は、どこかに責任主体を求めたくなるものです。その点をいかに解決するか。たとえば各主体が自立運用するようなDAOに近い形態、連携などがあると思っています。そのためにはパブリック型ブロックチェーンでないと実現できないということは見えてきていますが、具体的にどうすべきかは現在も試行錯誤しているところです。

直近では、AI活用の検討も進めています。NFTとAIを組み合わせることで、半導体のラベル生成の効率化を目指しています。かといって、AIに見せたいデータもあれば、見せたくないものもあるはずです。なお、AIはときに間違った解答をすることがありますが、それはAIが学習したデータが間違っているから起こるのであって、AIが導き出しているわけではありません。厳密には、LLMのロジックにより無理やり回答を生成してしまうこともありますが。

そのなかで製品のラベルを生成するためには、最終的には、データについて企業主権の保護とAI活用を両立する必要がありますが、透明性や可視化という点で課題があります。

違うコンテキストですが、最近ですと、国産のLLMを作ろうという動きがあります。ですが、ブロックチェーンを活用したスマートコントラクトでAIを動かせば、透明性を持って制御できますし、実は可視化という問題は解決できるのではないかと私は考えています。

リアルとデジタルの連携を阻む「とんでもない壁」

リモートでモデレーターを務めた、comugi氏

comugi:ありがとうございます。辻川さんの話は、基板や半導体の来歴をNFTで証明するというものでした。一方で、藤井さんがやられているのはリアルアセット、つまりフィジカルなプロダクト自体をNFT化するものです。そこに難易度の差はあるのでしょうか?

藤井:あります、あります。とてつもない壁があります。デジタルとリアルをまたぐとなると、とんでもない壁がそこにあります。
ブロックチェーンというのは、情報が書き込まれた段階から証明されるんですね。
しかし、その情報が正しいかどうかは別問題です。まさにリアルからきている情報というのは、嘘が紛れ込んでしまう可能性があるからです。
これは「フィンガープリント問題」と呼ばれていまして、リアルとデジタルのトラストをいかに両立するか、トラストレスの世界の実現は大きな課題となっています。

なお、Web3の構想というのは、実に複雑で、現在はWeb2.5くらい。今後も刻んで進化していくように私は思っています。

comugi:ありがとうございます。辻川さんはいかがですか?

辻川:フィジカルとそのデータの結び付け問題というのは、実はWeb3でもWeb2でも同じなんです。その難しさというのは、あまり変わりません。

コストの問題やオペレーションの問題もありますし、事業者全体の共通ルールにするハードルも存在します。
ですが、そこは意外と解決できそう。どちかといえば、藤井さんがWeb2.5とおっしゃいましたが、私も2021年の段階で、「Web2.9でプロジェクトを実現する」と話していまして、そのマイナス0.1の部分は残さざるを得なくなるであろうと思っているからです。
資本主義経済は効率重視の経済です。
効率を求めるとどうしても中央集権化、集約化してしまいます。分散型を実現するはずのウォレットも同様ではないでしょうか。
コントラクトウォレットは、一般ユーザーの利用ハードルを大きく下げる素晴らしいテクノロジーです。
一方で、普及していくと結局、中央集権的に管理されているウォレットがシェアを獲得するのではないかという思いもあります。

ユーザーの自己主権は保護され、行動が価値になるWeb3の世界

comugi経済合理性だけを追求していくと、1ヵ所に集中してしまう、Web3でありながら、中央集権的なものになってしまうのではないか。その辺り、鈴木さん、いかがでしょうか?

屋内, 人, 男, テーブル が含まれている画像

AI 生成コンテンツは誤りを含む可能性があります。
質問に回答する鈴木(写真右)

鈴木:そもそも論として、Web3ウォレット=コントラクトウォレットは、オンチェーンのみで完結しています。
あくまで個人主権のもとで自分のNFTを管理することができる。発行元がたとえ事業を継続できなくなっても、自分の資産がなくなることはありません。
インターネットと同じで、ISPを変えても、ページには到達できるわけです。
それがWeb3の情報空間における中央集権を完全に排除した後のトラストレスの世界です。
つまり、どこのウォレットを使おうと、自己主権は守られるということです。

経済合理性の観点ですと、マスで作用しそうな因子だけであれば、効率を求めた従来の経済圏、Googleのような市場ドリブンのアプローチのほうが有効だと思います。
一方で、たとえば特定製品の部品の製造過程がサステナブルかどうか気になるといったニッチなコミュニティに対しては、DAO向けの製品群というものが現れてくるのではないかと考えています。

もし、DAOに顔があったとすると、誰かが報酬を支払い、仕組みがあり、そこにおけるトークンエコノミーが存在します。comugiさんはこの界隈では著名人なわけですが、comugiさんを知らない人たちにはその価値がわからない。でも、我々は絶大な信頼を置いて、モデレーターを依頼している。これがDAOの価値だと思っています。

読者の行動によって集合知化した個人、その本を読んだことによって、その書籍や写真集の価値が上がったり下がったりする。
市井の人の行動がコンテンツの価値を決定するというDAO独特の原理に基づいた市場が見えてなければ、わざわざWeb3化する必要がないということだと思います。
その辺りが、おそらくトークンエコノミーと呼ばれる経済圏の成立基準というか、クライテリアになっていくのではないでしょうか。
一方でその価値観を共有しない人たちには、マスコミュニティにおけるパフォーマンス重視のアプローチ、経済合理性によって形成される帝国型のアプローチのほうが有効なのだと思います。

お金が唯一の指標。ゲームルールが足りていない現代社会

comugi藤井さんは、この資本主義における唯一無二のお金という価値について、それ以外のものを探したいというお気持ちもあるのでしょうか?

藤井:そうですね。私は小学校6年生のとき、水泳の50mバタフライで、日本一になっています。と聞くと、多くの方は私を「スポーツができる人」とイメージします。しかし私は、陸上は不得意。つまり、もし世の中に陸上競技しかなければ、私は完全なる運動音痴扱いなんですね。

現在の資本主義の尺度は、どれだけお金を儲けたかです。そこにずっと違和感を持っていました。お金は持ってないけどカッコいい、という人もいる。あれ、何か指標が足りてないなと。ゲームルールが足りてないのではないかと。スポーツにおいて陸上競技しかないのと同じ。普通におかしいですよね。

ですから、これまでとはまったく異なる価値指標で、しっかり新しい経済圏を存在させられるトークンエコノミー、DAOには大きな可能性を感じています。
さらにその仕組み自体、マイニングという形で、しっかり経済が回っていくところまで実現できたらという思いを根幹として持っています。
そのためには法律の問題など、さまざまな課題があるのですが、不可能とは思っていません。
お金儲けが苦手な方も幸せに生きていける。そういうゲームルールがたくさん存在し、自身に合ったゲームルールを選択できる世界になったらいいなと思っています。

藤井氏は、補足として、大阪大学の安田洋祐教授の話を紹介。「DAOは、現在は存在しない、社会における価値交換」に位置する新たな集団(組織)であるとも話した

comugi:非常にチャレンジな取り組みをされているのですね。話は尽きないと思うのですが、残念ながら、ここでお時間が来てしまったようです。
パネルディスカッションはこれにて終了とさせていただこうと思います。
ありがとうございました。

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