21万人が来場した「TOKYO GAME SHOW VR 2021」から考える、メタバースのこれから

by 小山 祐樹

ここ数年で話題を集めることが一気に増えた「メタバース」。次なるメディアインターフェースの構築に向けた取り組みが世界中で加速しつつあります。その先行事例になり得るのが、世界三大ゲームショウのひとつ「TOKYO GAME SHOW(以下、TGS)」のバーチャル会場として用意された「TOKYO GAME SHOW VR 2021(以下、TGSVR2021)」です。この一大プロジェクトはいかにして実現されたのでしょうか。また、どのような可能性があるのでしょうか。発足メンバーの株式会社ambr代表取締CEOの西村拓也氏とDIIチーフ・ディレクターの小山祐樹に尋ねます。

西村拓也
株式会社ambr代表取締役CEO。東京大学法学部卒業後、プライベートエクイティのアソシエイト、外資系AIベンチャーのビジネスマネージャー、エンタメテックベンチャーの取締役を経て、日本発の世界的なメタバース企業の実現を目指して、ambrを創業。メタバース構築プロダクト「xambr(クロスアンバー)」を提供し、トップブランド向けにメタバースを共創する事業を手がけている。これまで『仮想世界ambr』『TOKYO GAME SHOW VR 2021』『Magic: The Gathering Virtual Art Exhibition』等を実現。

小山祐樹
株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ チーフ・ディレクター。電通入社後、営業セクター、経営企画局を経て現在は電通グループのグループR&D組織である「電通イノベーションイニシアティブ」のチーフ・ディレクターとして、新領域投資や投資先との事業共創をリード。主にXR/メタバース/New Media領域、日本/北米/インド/東南アジアなど国内外のエリアを担当。電通グループ6社横断組織「XRX STUDIO」設立後の「TOKYO GAME SHOW VR 2021」では、チーフプロデューサーとしてプロジェクトの立案・設計から実装までを推進する。

リアルの代替としてのバーチャルではない可能性の模索

ー「TGSVR2021」のプロジェクトがはじまったのはいつ頃だったのでしょうか?

小山:西村さんにはじめて相談したのは、2020年の12月頃でしたよね。「こんなことはできますか?」という質問からディスカッションをはじめた記憶があります。

西村:そのときは、リアルの代替としてのバーチャルではなく、バーチャルならではの体験をいかにして構築していくかという話をして。バーチャルを介したイベントってこれまでもいろいろありましたが、コミュニケーションがどこか一方通行な印象が強かったんですね。それをどうやってインタラクティブなものにしていくかをすごく考えました。

小山:リアルなイベントの魅力って、未知のものに出会えるワクワク感やセレンディピティだと思うんです。それがオンラインになると薄まってしまうなと。一方で、世界中のどこからでも参加できるし、効率性も高まるというメリットもあります。その魅力を活かした体験づくりをしていこう、という話をしましたよね。

西村:あと、来場してくださる方々のことを何より優先したい、と。ゲームが好きで、TGSという場所に訪れること楽しみにしている。そういう方々の期待に応えるものをつくらないとダメなんじゃないかって。メンバー間でディスカッションが必要なときは、その軸を決してずらさないように心がけました。

ーどれくらいの準備期間を経て、完成に辿り着いたのでしょうか?

小山:3つのフェーズがあったと考えています。企画フェーズが1〜4月、開発フェーズが5〜7月、実装フェーズが8〜9月。なかでも4〜5月にかけては、スポンサーを探しながら開発を続けなければいけなかったので大変でしたね。

西村:何もかもが不確実な状態だったので、精神的なしんどさがありました。さまざまな調整の中で、開催できるかがなかなか確定せず動きづらい期間があったのですが、あるとき小山さんが「TGSVR、全リスクを背負ってでも、実施するともう決めて動きはじめましょう。TGSVRは、私達がやらないといけないことだと思います」とおっしゃってくださって。それで僕たちも腹を括ることができました。あの決断は両社にとっても大きなリスクテイクでしたが、それをきっかけに物事を進めやすくなった気がします。

小山:いわゆる受発注の関係ではなく、企業間の垣根を越えてワンチームで取り組むことできましたよね。西村さんは電通と組んでみてどうでしたか?

西村:すごく頼もしかったです。プロジェクトの初期段階で、「TGSがゲームになる」というすごく魅力的なキャッチフレーズというか、コンセプトをクリエーティブの方からいただいたじゃないですか。あの言葉から一気に構想が広がりましたよね。

小山:それでいうと、ゲーム的なUI・UXの設計は電通だけでは実現できなかったと思います。両者の掛け算がうまくできたからこそ、シナジーが生まれたのかなと。

ーさまざまなステークホルダーが介在するプロジェクトなだけに、コミュニケーションが大変だったのではないかと想像するのですが、実際のところどうだったのでしょうか?

西村:現在は別の部署に異動された安部さんというプロジェクトマネージャーが、いちばん泥臭い場所で調整役を担ってくださったのが大きかったと思います。ambrのメンバーはプロジェクトマネジメントが決して得意なわけではなかったので、そこについては全力で甘えさせてもらいました。ambrと電通の間はもちろん、スポンサー企業との間に入ってコミュニケーションを取ってくださったので、こちらは気兼ねなく開発に集中できたと思います。

小山:このプロジェクトの成功に、安部は欠かせない存在の一人でしたね。もともとXR領域やゲーム領域に精通していたわけではないにもかかわらず、日に日に専門用語に詳しくなって、さまざまなステークホルダーの間で奮闘してくれました。すごく頼もしかったです。新領域の開拓の際には様々なステークホルダーとの調整や共創が鍵になる場面も多く、スタートアップの皆さんにとってそのような電通の人間の備えた実現力は価値の一つになると再認識したプロジェクトでもありました。

西村:スポンサーサイドから多少無理なお願いをされても、安部さんの頼みだったら仕方ないなと思って取り組むことも多かった気がします。

制限がないからこそ、実現できる空間設計

ー結果として「TGSVR 2021」は、21万566人が来場し、平均滞在時間も約27分とある程度の成功を収めています。

小山:そうですね。しかも、アクセス数の3分の2はVRヘッドセットを利用していることもわかっていて。平均滞在時間もVRヘッドセットに限定するとさらに長い。こういった数字的なファクトは、世界的にも最先端の事例になったと思います。

西村:VRデバイスでの参加者数が多かったのは嬉しかったですね。一方で、PCでもアクセスできる仕様にしていたのに比率がそこまで高くなかったということは、もっと多くの人に届けられるポテンシャルがあるはずなので、より魅力的な体験をつくってきたいと思いました。

小山:それ以外の点で特徴的だったのは、各ブースの来訪者率にほとんど差がなかったこと。リアルなイベントだと滞在時間が限られてしまうので、回るブースと回らないブースをあらかじめ決めて行動するから来訪者率に如実に差が出ると思うんです。

西村:導線設計はうまく機能したことのひとつかもしれませんね。今回、各ブースを円環型に配置し、ぐるっと回れるようにしたんです。その結果、道に迷うことなく、各ブースを満遍なく訪れることができたのかなと。

小山:そこですよね、バーチャルのおもしろいところは。空間の制限がないから、ダイナミックにいろんなことができる。動画の視聴完了率も24.01%という数字が出ているのですが、モバイル広告と比較してもかなり高くて。バーチャルだと没頭して観ることができるので、途中で離脱しないのかなと思いました。

小山:加えて、一部の動画にアイテムが隠されていて、それを見つけ出すとTシャツを入手できる仕様にしたのも功を奏したと思います。それによって来場者もスポンサーもTGSもWIN-WIN-WINになる三方良しの状況を生み出すことができました。いかにプロモーションムービーを視聴してもらうかという課題は、これまでメーカー各社が四苦八苦して頭を抱えていたことでしたが、その改良策のひとつのようなものが見えた気がします。

TGSVR2022では1桁違う来場者数を目指したい

ーすでに「TGSVR 2022」の開催が告知されていますが、どのようなことに挑戦していきたいと考えていますか?

西村:より一層インタラクティブ性の高いコンテンツに挑みたいですね。ここ数年でバーチャル空間を利用したコンテンツが一気に増えましたが、その真価を十二分に発揮できていない気がしていて。だからこそ、「TGSVR」という場の力を借りて、ゲームの世界観や面白さがより伝わるようなものをつくれたらいいなと考えています。あと、メタバースはゲームやアニメのIPと相性が良いので、そこでも何かできたらいいですよね。

小山:実はTGSVRの空間を活用した広告の実証実験を簡易的に実施したんです。VR空間に看板を出したり、動画の視聴を促したりって。そこでリアルな空間とは違ったエンゲージメントの高め方や、ユーザーの行動動線のつくり方がわかりました。その知見を活かして、メタバース空間に設置されたオブジェクトにリンクが貼れるとか、アバターの衣装に協賛できるとか、そういうバーチャルならではの広告メニューを用意したらおもしろそうですよね。広告って邪魔なものになりがちでしたが、広告自体がエンターテインメントになる仕組みをステークホルダーの方々と一緒につくることができたら、すごくロマンがあると思うんです。

小山:あとは海外への展開。世界三大ゲームショウのなかでバーチャルに挑んでいるのは、TGSだけなんですね。2021年は残念ながら法務的な課題も意識しつつ、海外に向けたVRに特化したプロモーション施策は控え目になりましたが、それでも世界50カ国からアクセスがありました。彼らはどこかで情報を入手して、自発的に来てくださっているわけです。それくらい熱量のあるファンが世界中に存在するイベントなので、海外展開がうまくいけば、来場者数は2021年から1桁違う数字を目指せる可能性があると考えています。

ー「TGSVR」はある意味、メタバースの可能性を示すものにもなり得ると思うのですが、どのようなものにしていきたいと考えているのでしょうか?

西村:そうですね。これまでambrは自社のプラットフォームでメタバースをつくることに取り組んできているので、そこは絶対に外せない領域だと思います。ただ、どんな形が理想かと言われると具体的なイメージがあるわけではないのですが、現段階ではアーリーアダプターが遊んでいるものという認識が世間的には強いと思うので、もっと広く利用されるものにしていきたいと考えています。

小山:まだ黎明期なので、デバイス論やサービス論などを含めて、理想とされる姿は日々刻々と変わっていくんでしょうね。ただ、メタバースによって距離と場所の制約が取り払われるようになるのは、ものすごく可能性があると感じています。これまでなら幕張メッセに足を運ばないとTGSを体験することはできませんでした。それが極端なことを言えば、途上国や地方の山奥に住んでいるゲームが大好きな子どもたちでも、楽しめるようになるわけじゃないですか。

西村:実のところ「TGSVR 2021」で実現できなかったことのほうが多いんですね。まだまだアップデートできる余地が山ほどあるので、それを「TGSVR 2022」で叶えるのがひとつ。僕たちとしては、これまで培ってきた技術を横展開するのではなく、VR領域の最先端となる事例を次々と生み出して世界に届けていきたいんです。その挑戦の場が「TGSVR」であり、それを電通というさまざまなプロジェクトを手掛けてきた強力なパートナーと一緒に取り組めるのは、すごく可能性があることだなと。

小山:今回のTGSVR2021を通じてメタバース空間の消費行動として「AIDES(Attention・Interest・Devote・Emotional Action・Share」というものを「愛です」というダジャレも用いて提唱し始めてみたのですが、まさにメタバース時代においては「愛」が鍵になると思うんです。「TGSVR」やこれから先の様々なプロジェクトを通じて、世界中の人々が愛せるものを生み出していけるか。その可能性の追求を西村さん率いるambrと一緒に深めていきたいですね。

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