プレティア・テクノロジーズ対談:電通グループが描く、ARを活用したコミュニケーションの未来とは

ここ数年で一気にメジャーな言葉となった「メタバース」。一般的には没入感の高いバーチャル空間をイメージする方も多いのではないでしょうか?

しかし今回ご紹介するのは、そんなバーチャルと現実世界をつなぐARのスタートアップです。

WHY AR?

私たちは日々デジタル空間と物理空間それぞれで、仕事や買い物をしたりコンテンツを楽しんでいます。例えば、現実世界で服を買いながらも、ゲーム世界のアバターの装備やスキンにもこだわる。そんな人も増えていると思います。その二つの世界は完全に交わらないものでしょうか?

私たちが見ているのは、これらの体験がより滑らかに繋がることで、人間のイマジネーションがデジタル空間に留まらず現実空間でも人生を豊かにする世界。そして、その基盤となるのがARです。電通グループの事業ドメインの一つであるエンターテインメントやマーケティング・プロモーションにおいても大きな可能性をもたらすものと考えます。

ARクラウド開発のプレティア・テクノロジーズ

電通グループのR&D組織である電通イノベーションイニシアティブ(DII)は2022年8月、ARクラウドプラットフォーム「Pretia」を展開するプレティア・テクノロジーズ株式会社への出資を発表しました。プレティアは基盤技術のARクラウド開発と、AR技術の社会実装のため、ロケーション型のエンターテイメントや小売・製造業向けSaaS等エンドユーザー向けアプリケーションの開発・運営を行っているスタートアップです。

DIIによる出資後、DIIでAR事業開発を推進する仲子と電通 XRX STUDIOプロデューサー/テクノロジスト金林が、プレティアCEO牛尾氏との対談インタビューを行いました。

対談インタビューはプレティアのnoteに掲載されておりますが、DII公式ウェブサイトに転載することを許諾頂きましたので、この度、一部追記の上、本ポストで掲載させて頂きます。

AR市場の可能性について興味を持った方は、是非ご一読ください。

電通グループが描く、ARを活用したコミュニケーションの未来とは

牛尾 湧(写真中央)
プレティア・テクノロジーズ株式会社 代表取締役CEO。1992年生まれ。兵庫県出身。 東京大学在学中より起業を志し、学内の起業サークルに所属。 在学中に地方自治体向けの行政コンサルティング事業を興す。 2014年にプレティア ・テクノロジーズ株式会社を創業し、現在はARクラウドプラットフォーム “Pretia” の研究開発及びARを活用したエンターテインメントの開発を行う。

仲子 佳菜(写真左)
株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ シニア・マネージャー。アメリカで大学およびロースクールを卒業後、2011年電通入社。スポーツ局で国内外の競技団体マーケティング担当した後、クリエーティブプランニング局でグローバルキャンペーンのクリエイティブ担当を経験。サッカーの国際大会でVR観戦体験を企画したところからXRに興味を持つ。現在は、DIIでVR/AR領域を中心としたR&D戦略立案や電通ベンチャーズのメンバーとして海外スタートアップソーシングを行う。

金林 真(写真右)
株式会社電通 XRX Studio プロデューサー/テクノロジスト。XR事業開発及びXRでのトランスフォーメーションを行うグループ横断組織「XRX Studio」プロジェクトをプロデュース。メタバース系イベントの主催・運営やプラットフォームシステムの開発を実施。2021年にはTGS初のメタバース会場である「TOKYO GAME SHOW VR 2021」をプロデュース。ARは2012年ごろより、VRは2013年ごろより触れているXRネイティブ。趣味はフォトグラメトリー。CANNES LIONS 2013メディア部門等の広告賞を、新聞を用いたARアプリで受賞。

ー今回初めてご出資頂きましたが、プレティアと出会ったきっかけは何でしたか?

仲子:AR・VRの会社を対象に投資先のリサーチをしている時に見つけて、コンタクトを取らせて頂きました。

牛尾:元々事業部の方と面識はあったのですが、投資チームの皆様とお会いしたのはこの時が最初でしたね。

ー初めて牛尾と会ったときの印象はどうでしたか?

仲子:1番最初にお会いした時は、理路整然でスマートな印象でした。ただ、その後何回かミーティングしていくうちに、「論理的にARに可能性があるから取り組んでいる」という部分はありつつも、「難しい領域であるARクラウドやエンタメにも挑戦している」という泥臭い、熱意がある方なんだなと感じて印象が変わりました。

金林:元々しっかりしている人だというのは他の人からも聞いていました。作戦を立てて行動するタイプというか。実際会ってみてそれは凄く感じました。XRコンソーシアム(※1)でも同じワーキンググループで活動していたのですが、綺麗に丁寧に整理して、論理立てて説明をしてくれて、いわゆる「政策提言」がうまそうだなと感じました。そこはすごく印象的でした。技術を売っている会社ですが、技術方面で押し出していくだけでなくルール制定もしっかりと考えているのが大きなギャップでした。

※1 日本のXR業界(VR/AR/MR)の代表として、国内外の業界窓口となり、XR業界の発展に貢献することをミッションとしている業界団体。プレティアも所属している。

牛尾:シリコンバレーの起業家、ピーター・ティールの「ゼロ・トゥ・ワン」でも技術の会社だからこそセールスが強くないといけないということが書いてあって。私も自分のバックグラウンドを活かすならそうしないとと思い、尽力していますね。

ーここまでやりとりするなかで、牛尾の印象は変わりましたか?

仲子:先ほど触れましたが、まさに印象が途中で変わって、ビジネスライクではない部分がすごくあるなと感じるようになりました。

金林:最初の印象からまだ脱せていないのですが、隠している部分が沢山ありそうなのではやく暴きたいです(笑)。

ー出資を決めた理由をお聞かせ頂けますか?

仲子:元々ARクラウド自体は知っていて、その領域には会社として興味は持っていました。とはいえ、ARグラスの時代を見据えてという話になると遠いな、というのもあって。その間にスマホでも色々なことが起きていくはずなのに、何も手を打たないことに疑問を抱いて、一緒に開発していけるパートナーを探していました。

その中で、プレティアさんが素晴らしいなと思ったのは、コア技術に大きくリソースを投入しているのと同時に、ユーザーをしっかりと獲得して運営している所です。それが先を見据えつつも目の前のところで一緒に事業を作っていくパートナーとして良いな、と思いました。

金林:僕は「いけいけ!」って言っていました(笑)。確実に日本で唯一無二で、ベースの開発をしっかりしているので、最悪何かあってもそこを売ればなんとかなるだろうと。

あとは底力がある所が魅力的でしたね。他のARの会社はImmersalなど外部のプラットフォームを使っている中で、自分たちで完結させることは凄く大変なのに、実現できているのは凄いなと思いました。プラットフォームを手掛けるにあたって、「すぐにお金にならないけどどうするのか?」という部分についてもソリューションがあって、近々のマネタイズも成功させているというバランスもいいなと感じました。他の会社は、組んでもいいけどスペシャリティがないと思う部分があって、そういう意味で一線を画す会社と思い、安心して「いけいけ!」と推していました。

牛尾:金林さんのような技術の細かい部分まで分かる詳しい方にそう言って頂けるのは励みになります。

ーご回答が可能な範囲で、ロジックや数字の面ではどう判断されて投資に至ったのか教えて頂けますか?

仲子:決め手としては中長期的な協業パートナーという部分を推したので、必ずしも数字という話ではなかったです。マーケティングプロモーション領域での協業をすでにプラットフォーム運用などで持っていて、そこを一緒に作っていけると思いました。また、先ほどの話と繋がりますが、プレティアさんしかいない、という部分が強かったです。アプリケーションを作っている会社さんは多くありますが、単発ではなく運用レベルでやっている所が殆どいないなと。そこのノウハウを一緒に作っていける会社でないとタッグが組めないな、とずっと思っていました。

牛尾:謎解きARも4年くらい取り組んできた中で、運用面では色々な困難もあって大変でした。

仲子:私達のクライアントさんは要求レベルが高いことが多いので、そこを既に捕まえて動いているというのはかなりレベルとして高い方だなと思いました。

牛尾:深いところまで見て頂いているのは嬉しいです。

ー今後どのようなARコンテンツを進めていきたいですか?

仲子:ARで、単純な、一方的に伝えるだけの広告は作りたくないと思っています。最終的には広告というよりコマース領域が本筋なのかなと個人的には思っているのですが、そういうものがARクラウドで出来たらいいなと思います。

金林:ARクラウド"Pretia”が持つ、街を拡張する概念が面白いなと思っています。ARは3種類くらいあると感じていて、1つ目はNotification的なもの、2つ目はGoogle検索をして動物を出すといったような、脈絡なく出てくるもの、3つ目は街に溶け込む、場所を拡張するものです。その中で3つ目をやりたいと思っているんです。広告ではなく、体験を作っていきたいなと。そこがプレティアさんはうまいと思っていて、我々がやりたいこととの相性が良いと感じています。

牛尾:社内のクリエイター達とも話すのですが、ARと現実の境目が分からないものが1番面白いよね、と感じていて、気がついたらAR体験に入っている、というものが沢山出来たらなと思っています。面と向かってやりたい事をお聞き出来たのは初めてですが、そのようなコンテンツの思考をお持ちということで、良いパートナーに巡り会えました。

仲子:未来はシームレスに現実とARの世界が繋がっていくと考えれば、ARクラウドはすごく大事ですね。

ー続いて、プレティアの強み・弱みについてお聞かせ頂けますか?

仲子:強みはやはり技術開発しながらユーザーを獲得するという両輪を動かしている所です。弱みは、競合が強すぎるという問題があると思います。そこについては、難易度が高いとも思うので、我々と一緒に組むことで別の強みを作れたらなと。

金林:強みはプロダクトのオペレーショナル・エクセレンスの部分は勿論ですが、XRコンソーシアムでお話したときに感じたような、ユーザーに対して気を付けるべきポイントがナレッジとして溜まっていて、技術面とあわせてパッケージとしてまとめる力もある部分です。

一方、弱みはコミュニティについてです。開発コミュニティとマップ情報などが活かせる場として、情報を集めるコミュニティが両方うまく運用できればより良いと思っています。開発コミュニティは、開発者の不安である「永続的にアップデートされるのか」が解消できず、人数が増えていかないとナレッジも溜まらず、更に人が増えないという悪循環が生み出されないようにしないといけないですね。

牛尾:Unityでも開発者数の停滞は課題とされていますよね。

金林:あと細かい話なのですが、より軽いプロダクトを作れるようになってほしいです。挙動が重いものが今多いので…。ARクラウド"Pretia"内で代替テンプレートが作られたらもっと強くなると思います。

牛尾:コミュニティについては私達も課題意識を持っています。チームも小さいですし、そこへのリソースは限定的になってしまっているのが現状なのですが、まずARクラウド”Pretia"を良いと思ってもらい楽しくAR開発をしてもらうことでコミュニティ活性化に貢献できると思うので、プロダクト自体の成長も重要ですね。

挙動の重さに関しても仰る通りだと思います。昔の謎解きのプロダクトなどは結構重かったのですが、1~2年前くらいから優秀な技術者の方々が入ってきやすくなったのもあり、直近出ているものは軽量のものも増えてきました。ただ、それでもまだまだ改良の余地はありそうです。

金林:ちなみに、Geospatial API(※2)についてはどう考えていますか?結構革新的なプロダクトだなと思いましたが。

※2 Googleストリートビューで使用されている数百億の画像を用いたVPS(Visual Positioning System)が現在地の緯度・経度・高度を提供するサービス。ARフレームワーク「ARCore」のSDKに「ARCore Geospatial API」が追加されている。

牛尾:最初は競合として怖い存在だと思いましたが、結論としては自分たちのプロダクトに使えると思ったので取り込みます。ARクラウド"Pretia"の空間配置の精度は高いので、近くのSDKは”Pretia”、遠くはGeospatial API、というように補完関係で対応できたらなと。即時、開発ロードマップに反映したので、差別化できれば。

結局は自己位置推定を良い形で活用して、ヒットコンテンツを生み出すことが最も重要だと考えていて、それはまだどの会社も成功していないので、それがこれからの勝負ですね。

金林:SDKではなく自分たちで出す予定はあるんですか?

牛尾:今用意しています!結構面白い事が出来ていると思うので、今リソースを集約して頑張っています。

仲子:楽しみですね。

ー最後に、改めてプレティアに期待する事や一緒にやりたい事があればお願いします。

仲子:ARは、実は「既視感がある」というのが課題だったと思います。面白いユースケースが生まれるというのは単純なようで難しくて。ただメタバースが注目されてきて、丁度今の時期が、今まで関わっていなかった新しい人々が入ってくることで色々なユースケースが生まれるタイミングであり、大事なポイントになっていると感じます。そこで、プレティアさんのコンテンツ事業と一緒にこのタイミングで大きく世の中を変えるようなチャレンジがしたいです。

個人的には、ショッピング×ARゲームで何かできないかと思っています。購買、モノを所有するという行為が拡張できたらいいですね。

金林:海外で使われるサービスになってほしいです。あと一緒にやりたいこととして、ARは今スマホで掲げるのが面倒、という部分が正直あると思っているので、自然にやりたいと思えるものを作りたいです。一般的に高精度で使えるARグラスが出るまでまだ時間がかかると思うので。

牛尾:掲げる行為そのものが遊びになればいいなと思いますね。今後色々プロジェクトの種をまいていけたらと思うので、宜しくお願い致します。

関連記事

21万人が来場した「TOKYO GAME SHOW VR 2021」から考える、メタバースのこれから