事業開発とファンドの協働によるWeb3領域投資への挑戦 ーMysten Labs出資の裏側ー

まだまだ夏の暑さ冷めやらぬ2022年9月、レイヤー1(L1)ブロックチェーン「Sui」を開発する米国企業Mysten Labsによる3億ドルという巨額の資金調達のニュースが、Web3界隈を中心に話題になりました。

同時に、Twitter上では、この新進気鋭のL1ブロックチェーンの資金調達ラウンドに、日本の企業として唯一、電通ベンチャーズ(電通グループのコーポレートベンチャーキャピタル)が投資家として参加していることについて、驚きとともに言及するツイートも見られました。

今回は、Mysten Labsの出資に関わった電通ベンチャーズと、電通イノベーションイニシアティブ(DII)が電通グループ傘下の事業会社と設立したグループ横断組織web3 clubのメンバーへのインタビューを通して、出資までの経緯や困難など、プロジェクトの裏側のストーリーに迫りたいと思います。

電通ベンチャーズ 笹本 康太郎坪田 豊
web3 club / DII 文元 慎二
web3 club / 株式会社電通 データ・テクノロジーセンター 星野 怜生

Web2とWeb3の架け橋 Mysten Labs

ー本日は、Mysten Labsの出資プロジェクトを主導した4人に集まってもらいました。まずは軽く自己紹介をお願いできますか?

坪田:DIIにおいて組織の管理・運営の全般的なサポート業務を担当しながら、 電通ベンチャーズのメンバーとして、Web3領域におけるソーシング(案件の発掘)やデューデリジェンス(投資の合理性評価のための企業分析)を担当しています。電通のデジタル広告部門や営業部門を経て、DII に参加しました。

坪田 豊(電通イノベーションイニシアティブ シニア・マネージャー)

笹本:もともと電通の営業およびプランナーとして、クライアントのマーケティング戦略立案・実施を中心に広告関連業務を担当しておりました。2015年に電通グループのコーポレートベンチャーキャピタルである電通ベンチャーズを立ち上げ、国内外へのスタートアップの投資を担当しています。

笹本 康太郎(電通ベンチャーズ マネージング・パートナー)

文元:昨年(2021年)1月からDIIに参加し、現在はweb3 clubにも参加しながらNFTを含むWeb3領域のR&D(新規事業開発)を担当しています。個人のエンパワーメントを叶える可能性のある技術として、ブロックチェーンの設計思想に共感しています。

写真左 文元 慎二(電通イノベーションイニシアティブ シニア・マネージャー)

星野:株式会社電通のデータ・テクノロジーセンターで、データ戦略デザインを主務にしながら、web3や量子コンピューティングやPECなどの次世代のテクノロジーに係る研究と事業開発も同時に行っています。web3clubでは、デマンド(クライアント)起点だけではなく、広くサプライ(ベンダー)側ともリレーションを取りながら、双方を向いて事業の推進を行っています。

星野 怜生(株式会社電通 データ・テクノロジーセンター)

ー電通グループによるMysten Labsへの出資は、日本企業による海外Web3インフラ企業への出資ということで、Web3界隈でも意外だという受け止め方をされたみたいですが、どのような背景だったのでしょうか?

Mysten Labs共同創業者兼CEO Evan Cheng氏と電通チーム

笹本:まず前提として、電通グループの新領域における投資を担当している電通ベンチャーズは、グループ全体の領域戦略も踏まえながら、案件をソーシングしています。

その中で、Web3領域は、企業が主導する中央集権的な情報流通の形を、個人が自らのデータを自身で収集管理していくような形に変えていく新たな潮流として注目していました。(以下は関連記事)
>>Messages in Tech. 01 : Web3.0時代に世の中はどう変わる?

電通グループは、これまで情報流通の周辺でビジネスをしてきたこともあり、DIIを中心に継続的にWeb3領域での事業機会を探っています。

例えば電通ベンチャーズでは、今年の4月にブロックチェーン技術を⽤いたゲームの開発などを行うdoublejump.tokyoに出資させて頂いており、アプリケーションレイヤーでの投資実績があります。他方、Fat Protocol(Web3はプロトコルレイヤーに価値が蓄積するという理論)と言われるようなプロトコルレイヤーの重要性も考慮し、日頃からL1で投資連携できるスタートアップがないか探していました

今回、電通ベンチャーズのソーシング・ネットワークを活用することで、Mysten Labsにコンタクトすることができ、お互いのビジョンの共有や将来の協業の可能性のディスカッションを経た結果、投資を実行するに至りました。

星野:タイミングもありましたよね。プロトコルレイヤー自体の重要性に加えて、市場の盛り上がりやトレンドといったモメンタムを掴んだ投資だったと思います。

坪田:DIIでは、電通グループの将来のあるべき事業像からバックキャストして投資をする方法と、バックキャストしつつも市場のモメンタムや投資機会を捉えて電通ベンチャーズを活用しながらオポチュニスティックに投資する方法があると思っています。今回は電通ベンチャーズとしてオポチュニステイックに貴重な投資機会を捉えられたと思っています。

ーL1でビジネスを行うブロックチェーン開発会社は複数ある中で、どうしてMysten Labsにコンタクトしたのでしょうか?

坪田:Mysten Labsは、創業者がフェイスブックのクリプト部門立ち上げの経験者で、そのときの経験がSuiの設計思想に反映されています。例えば、Suiも採用しているMove言語は、フェイスブックがクリプト用に開発したプログラミング言語のためWeb2エンジニアにとって扱いやすく、スケーラビリティの面で優位性があると考えています。Suiに限らず、Move言語を使用したL1ブロックチェーン全体が盛り上がっていますね。

笹本:Mysten Labsの経営チームは、Web2企業も使えるブロックチェーンを普及させることが、Web3の民主化に繋がるという信念のもと事業を行っています。ブロックチェーンの世界では、完全に分散化した世界を志向するプレイヤーもいますが、電通ベンチャーズではWeb2とWeb3の間のビジネスチャンスにも注目しています。(以下は関連記事)
>>Web3.0の実装で社会はどう変わるか。「AWAsia 2022」セッション

その点、Mysten Labsは、Web2とWeb3の両方をブリッジするようなビジネス展開を検討しており、電通グループとの親和性は高いと考えました。例えば、電通グループのクライアントのWeb2企業が新たにWeb3領域で事業を検討する際、電通グループがSuiとの連携をサポートすることで、より効率的かつスムースに事業展開を行うことが可能だと考えています。

星野:Suiはエンタメ領域での事業拡大が期待できるというのも、電通グループにとっては相性が良いですよね。金融寄りのL1ブロックチェーンもある中で、Mysten Labsは今後ゲーム領域などでのパートナーシップを拡大していく予定と聞いています。

マクロな投資戦略とミクロな事業開発の両輪によって加速するWeb3型R&D

Mysten Labsへの出資にあたって、電通ベンチャーズ、DIIとweb3 clubの三者が協働したと伺いました。どのような体制で動いているのでしょうか?

文元:web3 clubは、Web3領域における事業機会の探索だけではなく、実際の事業開発まで一気通貫で行うことを目的として、DIIと電通グループ傘下の事業会社が立ち上げたグループ横断組織です。

電通ベンチャーズがWeb3領域のプレイヤーへ投資を検討する際は、DIIやweb3 clubにもR&D視点、事業視点での見解を求められます。今回のMysten Labsの投資検討の際も電通ベンチャーズのメンバーと一緒になってデュー・デリジェンスを行いました。

笹本:web3 clubは、Web3領域の最前線で実践知を蓄積している貴重なグループ内パートナーと感じています。Web3領域は特に動きが早いので、最新の事業動向を身近なところでキャッチアップできる体制はありがたいですね。

星野:逆にweb3 clubからすると、電通ベンチャーズを通じて投資家が注目しているプロダクトを早期にキャッチできるので、市場トレンドを掴んだ事業開発を進められる利点を感じています。特に資金調達したスタートアップはプロダクトのマスアダプションを目指していくことが多いので、大企業のクライアントと向き合っている事業サイドの知見が活かせる部分もあると思っています。

笹本:電通ベンチャーズでは、投資家としてグローバルのマクロなトレンドを俯瞰しながら、大枠の投資方針を策定していきます。一方で、ミクロなプロジェクトを実際に動かして作りこんでいる事業開発メンバーからの解像度が高いインサイトも、とても重要です。二つの異なった目で投資案件を見ることで、コーポレートベンチャーキャピタルならではの質の高いディスカッションが可能となるため、非常に恵まれていると思います。また、投資より事業連携を先行することで、協業の相性を確認してから投資を具体的に検討する、といった選択肢も取ることができます。

星野:Web3的に言うと、投資機会を通じて分散的に事業開発を加速できると言えるかもしれません。web3 clubは事業会社起点で、色々な開発会社とお会いしています。そういった開発会社の方々との連携をする際に、投資先各社とのシナジーを活かすことで、電通グループとしての提供価値を最大化できると考えています。

Web3領域は、これまでの電通の事業領域とは少し離れているようにも感じられ、Mysten Labsへの投資を評価できたことについて驚きの声もあったようです。Web3プロジェクトを評価する際、電通ベンチャーズ、DIIとweb3 club間でどのように連携しているのでしょうか?

文元:レイヤーによっても確認するポイントは変わってきますが、ICOが盛んだった頃はホワイトペーパーだけ書いて中身がないままお金を集めるような詐欺プロジェクトもたくさんあったので、特にL1、L2といった深い層のプレイヤーの場合は、実際の開発状況がどうなっているのかを調べるために、GitHubでコミュニティが出来ているのか、エンジニア界隈の中でどう評価されているかなどを投資先の開発者などにもヒアリングしながらR&D側でも最低限確認するようにしています。

星野:Web3案件を評価する際のチェックポイントは日々変わっています。例えば、ICOが盛り上がっていたときはプロダクトがちゃんと出来ているかが重要で、STEPNが盛り上がっていたときはトークノミクスを見ることが重要と言われていました。こういったチェックポイントは特に事業側からキャッチできるところもあるので、電通ベンチャーズやDIIで経験値として蓄積しつつ、web3 clubで日々アップデートをかけていくことが重要だと思います。

文元:あとは投資、R&D、事業といった役割に関係なく、Web3担当者は、既に動いているプロダクトはユーザーとして実際に触ることも大事だと考えています。時には痛い目を見ることもありますが、身をもってそういった体験をしていないと、本当の意味でWeb3は理解できないように感じます。

坪田:一方で、新しくでてきたプロジェクトに対しては、すぐに怪しそうと斜に構えるのではなく、まずはフラットに見てみるというのも大事なことだと思います。通常、新しいプロジェクトにはネガティブな意見が出てくるものです。しかし、そこで拒絶してしまうと、本当は得られた有益な機会を逃すこともあるでしょう。とりあえず一回コンタクトしてみるという姿勢も大事だと感じています。

文元:その意味でも、投資する前に投資検討先と一緒に仕事してみることができるのは、web3 clubと電通ベンチャーズが協働する強みですよね。エンジニアリング力がどれぐらいあるかなど、一回仕事すれば分かりますから。

笹本:日々めまぐるしく変わるWeb3領域のチェックポイントに関して、web3 club側のオペレーションレイヤーでフィルターできるのは、投資家としての電通ベンチャーズの差別化にも繋がっています。

地道な投資活動の積み重ねがMysten Labs出資に結実

ー今回のMysten Labsの資金調達ラウンドは、暗号資産取引所大手のFTXの投資部門をはじめ、a16zのクリプト投資部門など、錚々たる面々が参加していましたが、電通ベンチャーズはどのように投資機会を得たのでしょうか?

笹本:2015年の設立以来、電通ベンチャーズは、投資先の事業成長のサポートを含む海外投資の実績を地道に積み重ね、海外VCとの信頼関係を構築してきました。そのような土台がある中で、L1でのパートナー候補をリストアップしていく際、Mysten Labsの名前が挙がりました。電通ベンチャーズのネットワークを通じてMysten Labsに出資しているグローバルのベンチャーキャピタルにコンタクトした結果、経営チームの紹介に繋がりました。

坪田:グローバルでは優良なWeb3領域のスタートアップの情報は、トップティアのクリプト系ベンチャーキャピタルに集中している現状があります。今回、Mysten Labsに出資できたことは、そういったトップファンドとの関係性を一層強化できたという点でも良かったと感じています。

ー電通のような大企業だと、Web3のような新しい領域での意思決定は難しいのでは、という声もありました。どうして機動的に投資の意思決定ができたのでしょうか?

笹本:電通ベンチャーズは、大企業におけるいわゆるイノベーションのジレンマを解決する目的もあり設立されました。そのため、必要とされる適切な権限移譲の仕組みが、当初から意思決定プロセスに組み込まれています。それに加えて、設立以降、投資からの財務的リターンと事業への戦略的リターンの両立に向けて着実な降り組みを続けてきたことにより、社内での信頼度も高めてきました。その結果、DIIおよび電通ベンチャーズで独自に投資の意思決定ができる体制を構築できています。そのため、Web3という難易度の高い領域でも投資を機動的に実行できました。

一方、権限を与えられているが故に、Web3領域のような難しい案件については、精度の高い投資の意思決定をすべく最大限の注意を払っています。Mysten Labsの投資検討についても、外部の投資家や投資先の専門家に幅広くリファレンスを取りながら、スピード感を維持しつつも慎重に検討を行いました。

坪田:投資の意思決定者の顔がきちんと見えることは、スタートアップ側にとっても良いことですよね。

笹本:スタートアップとしては、目の前でプレゼンしている相手が最後に意思決定してくれないのはフラストレーションが溜まると思います。投資部門への適切な権限移譲は、特にWeb3領域でスピード感のある投資活動を継続するためには重要なポイントになるのではないでしょうか。

ーMysten Labsのような著名なWeb3企業だと資金には困っておらず、投資家には資金以外に何が提供できるか、という点も問われたのでは、というツイートもありました。実際のところ、どうなのでしょうか?

笹本:Mysten Labsは、大きなビジョンのもとに、長期的な目線で事業を拡大していくことを考えています。彼らは、電通グループが現在グローバルに展開している複合的かつユニークな事業との連携に魅力を感じている一方、短期的な目線での具体連携を求めているわけではありませんでした。それよりは、相互のディスカッションの中で、長期的に新しい事業を創っていけるパートナーになりうる可能性があるか、という点を見られていたと思います。

具体的には、投資検討のやり取りの中で、Mysten Labsの世界観や事業を適切に理解した上で質疑応答し、将来の事業連携の可能性についても、解像度の高いディスカッションを行えたことが、信頼感の醸成に繋がったと感じています。その過程で、Web3のオペレーションについての深い理解は不可欠で、web3 clubのインプットが大いに役立ちました。最終的に、このチームと一緒にやりたいと思ってもらえた結果、投資が成立したということだと思います。

Mysten Labs投資により発現したチーム進化

ーMysten Labsの投資検討を振り返って、いかがでしたか?

星野:Web3領域と一言に言っても、幅広いトピックがある中で、L1を深堀りする良い機会になったと思います。日々のニュースを追いかけるだけだと、それぞれのニュースの重要性を判断できないので、ファンダメンタルなところをまず理解するというのは大事だと感じます。

坪田:私も、Mysten Labsを投資検討する過程で、L1の中でも特に、イーサリアムの学びを深められました。また、イ―サリアムの良さを知ることで、Mysten Labsの特徴をより深く理解することができました。

文元:市場として分かりやすくムーブメントが起きるのは、dAppsレイヤーでキラーアプリが生まれた時ですが、結局、NFTも含めてそういった上層のレイヤーで起きているムーブメントは、より深層のレイヤーでの技術革新が発端となっていることが多いと思います。そういう意味でも、深層のレイヤーで起きている出来事をできるだけキャッチアップしていくことは重要ですよね。

Mysten Labsの投資の検討から、実際に投資を実行したことで、何か変化はありましたか?

文元:電通グループの既存の事業領域とは遠い領域の中で、それでも投資を実行するというプロセスを経験できたこと自体が良かったと思っています。チーム全員でL1プレイヤーを評価するための視点を出し合ったり、各ブロックチェーンの強み弱みを精査する中で、分からないから投資しない、でははなく、分からない部分もあるけれどもそれを差し引いても大きなメリットを感じられるから投資をしよう、という判断に至った経験自体が身になったと感じます。

坪田:web3 club、DIIや電通ベンチャーズのネットワークを活用した専門家へのヒアリングも行いつつ、最終的には電通ベンチャーズ自身で、L1やSuiのことを深く理解する必要がありました。そのために、メディアやSNSに流通している二次情報に頼るのではなく、チームで協力して、Suiのホワイトペーパーを含む一次情報を徹底的に分析して領域理解を深めました。今後もこのような技術的に難易度の高い案件についても、チームで協力していけば投資検討できると再認識できたのも収穫だったと思います。

笹本:スタートアップへの投資では、事業計画自体というよりも、その作り方にそのスタートアップの目指す事業の解像度の高さが現れたりしますが、Web3領域でも、ホワイトペーパーをどのように作成しているかに、事業への解像度が現れるなと思いました。

また、Web3企業のバリュエーションはまだベストプラクティスも少なく難易度が高いのですが、今回はトークノミクスの妥当性や実際どの程度のトランザクションが生まれそうかということも検討に入れながら、総合的に妥当性を検証しました。なじみのない領域でも、チームできちんと一次情報に基づき領域理解を深める経験が出来たことは、チームにとっても良い経験になりましたね。

星野:L1のような深いレイヤーまで関わっている大企業は殆どいない中で、今回Mysten Labsの投資に至れたので、今後の事業側のアイディエーションの幅も広げられると感じています。

笹本:コーポレートベンチャーキャピタルは、未来を見据えないといけない一方で、現場から離れすぎると事業連携の難易度が上がるという難しい立ち位置にあると思います。今回の電通ベンチャーズ、DIIとweb3 clubの協働体制によるMysten Labs出資を通して、電通グループのコーポレートベンチャーキャピタル機能を一段進化させることが出来たのではないかと思います。

投機性の拒絶ではなく受容から拡がるWeb3の新たな世界

ー今回、Mysten Labsへの出資によって、電通グループはまた一歩Web3領域に踏み込んだ訳ですが、ともすればWeb3領域は投機的な見られ方もする中で、電通グループとして実現したい社会とは、どのようなものなのでしょうか?

星野:Web3の大きな特徴の一つとして、価値の流動性の増加ということがあると思います。Web3に健全に参加できる環境整備は必要だと思いますが、投機性もWeb3の一側面ではあり、それを完全に否定することは、結果としてWeb3の特徴である価値の流動性を否定することになってしまいます

坪田:イーサリアムも含めて、現実としてブロックチェーンの仕組み自体が金融的なエコシステムを内包しています。そういう意味では、アプリケーションレイヤーであろうと、より深いレイヤーであろうと、投機的かどうかという観点よりも、プロジェクトが長期的なビジョンに向かってアクションしているか、というところが最も重要だと考えています。

文元:そもそもブロックチェーンは、価値のインターネットと言われているように、価値の流通を滑らかにしていくことを実現できる技術だと思います。多くの人がそのようなインフラにアクセスできるようになった結果、どうしても投機的な側面ばかり取り上げられがちですが、本質はそこではないと思っています。

例えば、NFTが流行り始めた頃は、海外の先進的な企業を中心に高価格のNFTが販売されたりしていましたが、最近のスターバックスの事例などを見ても、投資対象としてのNFTというより、実績証明としての側面に焦点をあてたNFTや(その側面をよりコンセプチュアルに規格化した)SBTの活用が増え始めています。

このようなNFTやSBTが企業のロイヤリティプログラムなどに活用され、今後益々ユースケースが増えることで、社会の評価尺度の多元化を促進させるのではないかと考えています。

DIIとしては、個人が自らの活動履歴を証明することで、主体的にメリットを得られるような社会を実現したいと考えており、そのための事業開発を推進していきます。

ーWeb3領域は一層の多様化が進むと思いますが、電通ベンチャーズとweb3 clubとして、今後どのように向き合っていきますか?

坪田:投資活動という面では、国内については、既にお付き合いのあるスタートアップも多く、幅広く情報を集めていける感触があります。海外については、今回のMysten Labsのソーシングと同様に、グローバルファンドとの関係を活かしたソーシングを一層強化していきたいです。

星野:web3 clubとしても、新たなソーシング手法の開発も含めて、引き続き投資に関与していきたいと思います。例えば、トークン周りの公式資料を事業理解にもとづいて読み解くことで勝ち筋の高いプロダクトを見つけることもできると思いますし、オンチェーンデータを解析することで話題になる前の有力プロダクトを発掘するようなこともできるかもしれません。

笹本:正確なトラクションデータをタイムリーに集めることができれば、当然プロダクトの質を解像度高く評価できることができます。この点、Web3領域では、それらがオンチェーンで可視化されており、より分析の精度を上げられるため、ソーシングとの親和性も高いと思います。

星野:あとはレピュテーションの世界でもあるので、愚直に事業側と投資側の双方で実績を積み重ねるのが遠回りのようで結局近道になると思って活動しています。

笹本:コーポレートベンチャーキャピタルならではの強みを活かして長期的に社会に価値を産みだす事業を創るために、本質的な変化を捉えながら、そこに合致したビジネスにしっかり投資していくということをしたいですね。

Web3領域はまだ手探りのところも多く、正解もないですが、YesかNoの明確な意思決定を都度求められるヒリヒリした投資検討の機会も一つのきっかけにしながら、一歩一歩、チーム全体でケイパビリティを高めていければと思います。

ー最後に、Web3領域における、今後の投資や事業活動の展望を教えてください。

文元:Web3によって、個人がこれまで以上に自分の価値観を尊重して生きていけるような世界が実現すると思っています。その際、DIIとしてはコントラクトウォレットが個人側にとって特に重要性の高いプロダクトになると思っています。Web3を真にマスアダプションするために、パートナー企業の方々と一緒にコントラクトウォレットを起点とした事業開発をしていきたいですね。

星野:web3 clubとして、ディマンド(クライアント)サイドとサプライ(開発)サイドの両方をバランス良く見るということを大事にしていきたいと考えています。ディマンドサイドに寄りすぎると新しい技術の動きのキャッチが遅くなりますし、サプライサイドに寄りすぎるとクライアントニーズへの理解が欠けてしまいます。

クライアントニーズに合わせた地に足の着いた事業開発をしつつも、開発側での新しい動きのキャッチアップを貪欲にやっていくことで、事業開発と投資を通じたWeb3領域への貢献ができればと考えています。

坪田:Mysten Labsへの投資を通じて、テクノロジーの理解によって投資先や投資活動に提供できる付加価値の大きさを再認識しました。引き続きテクノロジー周りの理解度や感度を高めることで、ソーシングやデューデリジェンスの精度を上げていきたいです

笹本:事業開発とファンドの協働チームで取り組んでいるWeb3領域は、難しい領域だからこそ、自分たちのチームにとっても進化の機会だと考えています。Web3領域は今後も重点領域として取り組んでいきますので、幅広いスタートアップの方々と一緒にお互いの取り組みを加速させていければ幸いです。今後とも、電通ベンチャーズとDII、web3 clubを、よろしくお願い致します。

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