認知度7割超! メタバース市場把握調査から見える「メタバースの現在地とそのビジネスポテンシャル」
2021年10月、Facebookがメタバースに由来する「Meta」に社名変更したことで、一気にバズワードとなった「メタバース」。電通グループでは、2021年より、「メタバースに関する意識調査」を実施し、実態の把握に努めてきました。今回、第2弾となる調査結果について、調査の主体となった、電通グループ横断組織「XRX STUDIO」のメンバーによる座談会を「Meta Horizon Workrooms」内で実施。メタバースの現在地とそのビジネスポテンシャルについて意見を交わしました。
この記事の内容
● メタバースの認知が大幅アップ
● メタバースに対する企業の期待
● デバイスの普及状況やユーザーの特徴
● メタバースでユーザーが求めること
● 「VR×イベント」に見る、メタバースの可能性
● メタバースのイベント活用における費用対効果
● メタバース上での課金は増加傾向
● メタバースと親和性が高い、アパレル業界
● メタバース活用をご検討されている方へ
<座談会メンバー一覧>
三邊 立彦/株式会社電通 事業共創局/XRX STUDIO
金林 真/株式会社電通 事業共創局/XRX STUDIO
小山 祐樹/株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ/XRX STUDIO
森岡 秀輔/株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ
池田 心平/株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ/XRX STUDIO(ファシリテーター)
メタバースの認知が大幅アップ
池田:日本におけるメタバースの現在地を知るという主旨で、2年目の意識調査ですが、結果について簡単に教えていただけますか。
森岡:はい、電通では2021年より、メタバースに関する意識調査を実施しています。まだ新しい領域でもあることから定点観測していくことが大事と考えており、昨年8月に第二回目となる調査を行いました。多様な方が答えやすい設計など、内容についてはアップデートもございます。調査の概要は以下の通りです。
森岡:メタバースの認知度は全体で71%と、前回の18.6%から約4倍と大幅にアップとなりました。メタバースという言葉自体は大分社会全体に浸透してきていることがわかります。
森岡:世代別についてですが、どの世代でも認知度が高くなっています。特に、前回低かった40代〜50代の認知度が大きく伸び、ともに70%を越えました。
メタバースに対する企業の期待
池田:メタバースの認知度が急激に高まっているということですが、メタバースをビジネスに活用するという企業の期待に変化はありますか。
小山:メタバースという言葉自体の定義も現状は曖昧で、「仮想空間活用」全般を指す言葉として使用されるケースが多い印象です。「VR」もあれば、「AR」もある。また、「Virtual Worlds」としてPCやスマホアプリを介して仮想空間で遊ぶゲームもそこには含まれます。メタバースの本質的な価値は、場所や距離など、現実世界の制約を超えて、誰かとコミュニケーションできたり、体験を共有できたりすることだと考えており、そこに多くの企業の方が可能性を感じるのは、当然だと思います。実際、問い合わせも増えていますので、大きなポテンシャルがある市場だと捉えています。また、更に進化としては今までの「2D」の制作・表現方法が「3D」でも可能になり、例えば視聴を通じた「認知(認識)」に加えてアバターを通じた「体験」を提供することで、より企業の想いやメッセージを効果的に伝えることができると期待されます。市場としては未だ創成期ですが、そのような大きな進化に向けて早い段階からトライアルを始めようという機運も高まって来ていると思います。
三邊:事実、2021年と2022年の比較としては電通グループの方でサポートをさせて頂いたメタバース案件は倍以上に増加しています。その内訳もイベントや独自プラットフォーム構築といった事業のご相談から、若者向けのブランディング、バーチャルショールームやデジタルコマースなどマーケティング活用も様々です。顕在化して来ているニーズからもとても広い業界の方に関心を持って貰っていると感じ、2022年5月に「インテグレーテッド メタバース ソリューション」の提供を開始させて頂きました。(https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/000715.html)
デバイスの普及状況やユーザーの特徴
池田:メタバースはどのような環境で利用されているのでしょうか。デバイスの普及状況や、ユーザーの特徴についても教えてください。
森岡:現在、いわゆるメタバースプラットフォームにアクセスするには、専用デバイスが必要です。スマホでもアクセスできますが、やはりヘッドマウントディスプレイ(HMD)の方が没入感はありますよね。ただし、デバイスの進化・普及にはまだ「デバイスの壁」という課題があるのが現状です。今回の調査結果でも、「認知はしているけど未体験」という方が多くいました。
金林:今後についてもHMDがスマホレベルに普及するとは考えづらい。となると、もっと日常使いができる、ARグラスのような形かもしれませんね。
森岡:メタバースを体験したことがあるユーザーについてですが、「情報感度」に対する項目のスコアが高く、好奇心旺盛で情報感度も高く新しいサービスに対して意欲的な行動をする傾向を持つことがわかっています。デバイスの普及も重要ですが、現状でもその特性はさまざまな形で活かせると考えています。
メタバースでユーザーが求めること
森岡:今回の調査では、性別・世代によって、異なる実態が見えてきました。たとえば、30代より40代の方のほうが、メタバースを体験しているユーザーは多い傾向にありました。その理由を探ってみると、好きなアーティストのライブが「たまたまメタバース開催だったから」というのが多くを占めていました。さらに性別で見てみると、メタバースを体験したことがあるユーザーは、現状の調査結果では男性ユーザーが多いことがわかりました。
金林:メタバースプラットフォームには、ゲームも含まれるので、ゲームを楽しむ男性ユーザーの多さが、そのまま結果にもつながっているように感じます。
森岡:そうですね。加えて、10代は、メタバース上でリアルの商品を購入したいと考えるユーザーが他の年代と比べると高いというのも、興味深い結果だと思います。
森岡:一方で、Z世代は、メタバースへの関心が多岐にわたります。「アバターの作成」や「空間の設計・デザイン」、さらに「3Dアイテムの購入」や「仮想空間上でのイベント参加」などは、全体と比較して10ポイント以上高く、Z世代ユーザーに向けたメタバース上でのコミュニケーションの有効性も感じられる結果となりました。
金林:今回の調査結果では、特に女性からの関心が高かった「アバターの作成」「空間の設計・デザイン」「3Dアイテムの購入」といったコンテンツもメタバース上に増え始めています。40代ユーザーのように、”きっかけ(動機)”さえあれば、メタバースを体験するユーザーは今後、ますます増えていくのではないでしょうか。
森岡:プラットフォーム別の楽しみ方についても調査していますが、「某海外プラットフォームB」では、ゲームを楽しむだけでなくアバターのファッションを楽しむユーザーが多くいることがわかっています。以下はデプス調査の結果をまとめたものです。
金林:「某海外プラットフォームB」は、体感値としてすごく女性ユーザーが多い印象です。調査結果からも、ファッションだけでなく、コミュニケーションを求めてアクセスしているユーザーも多い。これは何かの記事で読んだのですが、夜中に子どもを置いて出かけることは難しいけれど、メタバースならメイクもせずに気軽に行けて、誰かとおしゃべりできるのはうれしい、と答えている方がいました。メタバースには、そうしたニーズや使い方もあるのだなと思っています。
森岡:コミュニケーション需要の観点でいきますと、ジェンダーに関しては多様な性自認を尊重する方法で調査を実施させていただいていますが、LGBTQ+の方のスコアを見ると、全体のスコアと比べ、倍くらいコミュニケーションへの需要が高い傾向にありました。メタバースには心理的安全性が持てる場として機能する側面もありそうです。そう考えると、メタバースはダイバーシティというテーマとも親和性は高いかもしれません。
「VR×イベント」に見る、メタバースの可能性
森岡:今回の調査ではメタバースで実施された主要なイベントの認知や体験についても質問していますが最も認知が高かったのは「某バーチャルゲーム展示場」で、2割半ばとなりました。
金林:これもゲームとメタバースの相性のよさを証明していますよね。「某バーチャルゲーム展示場」の場合、VRユーザーの滞在時間は長く、活発にアクションをしています。やはりVRの体験というのは、ユーザーにとって非日常感があり、体験価値も高いものなのだと感じました。
三邊:そこに、メタバース×イベントの市場も拡大していく可能性を、肌で感じることができたように思います。リアルイベントでは提供しづらいようなダイナミックな体験も安価に提供できますし、日本中どこからでも、海外からでもアクセスできて、さまざまなユーザーと同時にひとつの空間を共有できるというのは、リアルとはまた違った新しい体験です。その特性を活用して、メタバース上でイベントを実施すれば、企業間はもちろん、企業とユーザーの新たなつながりを生み出すこともできるのではないでしょうか。
小山:そうですね。メタバースとリアルイベントを組み合わせることで、新規ユーザーとの出会いを創出できたり、新しいビジネスチャンスを生み出せたりと、価値が高まっていけば、自然とリアルとメタバースのハイブリッド開催は増えていくように思います。また、「某バーチャルゲーム展示場」に行きたい遠方の方も、メタバースなら気軽に参加できるというのは、ユーザーの参加ハードルを大幅に下げることにつながるので大きなメリットですよね。
メタバースのイベント活用における費用対効果
池田:今後、メタバースをイベントに活用する、ないしリアルイベントと併用することで、費用対効果が向上するということは考えられますか。メタバースだからこそ得られるデータなどもあると思います。
小山:リアルにはリアルのよさがありますよね。リアルイベントならではのワクワク感はそのひとつです。メタバース上の空間も、リアルのようなワクワク感に加えて更に自由度、たとえば広大な空間があったり、メタバースでしか体験できないコンテンツがあったりと、上手に活用することが大切かなと思います。これまで正確に把握できなかった行動データが取れるという点でイベント施策における有用性の検証としても相性が良いです。結果、費用対効果が見合うと判断され実施される企業様がたくさんいらっしゃいます。
リアルでは正確に把握できないデータが取得できる点についてですが、リアルではイベント会場で配布したアンケートの回収量や回答結果からしかわからなかったことが、メタバース上なら、もっと簡単に得られます。誰がどこで、何をしたか。細かいデータの取得や分析ができるのは、メタバース活用の大きなメリットのひとつだと思います。
三邊:まさにデータ周りは、メタバース活用の強みのひとつですよね。たとえば、企業がメタバース上で、NFTのアイテムを販売したとして、アイテムが見られた回数や販売数、さらにはトレードされた回数まで取得できる。そのなかで、新しい指標も生まれていくと考えています。いわば、データ軸のエンゲージメント事業みたいなものが、今後重要になっていくと見ています。個人的には、非常にポテンシャルのある領域として期待しています。
メタバース上での課金は増加傾向
池田:メタバース上でのイベントの成功も、データから読み解けますか。
金林:リアルイベントにおける「成功」の判断基準というのは、もちろんイベント体験人数も大切なのですが、その場の熱量や盛り上がりも重要な指標になっています。イベントが終わったあと、参加した人たちがみんな笑顔だった、みたいなことも、クライアントからの評価につながっています。つまり、定量的な部分と定性的な部分、両方が大切なわけです。メタバース上のイベントも、データだけでなく、定性的な部分も含めた評価はやはり重視されると思います。
盛り上がりの可視化という点では、投げ銭のような仕組みは、ある意味で熱量を可視化しているユーザー表現の一種と捉えることもできます。もちろんほかにも手法はあるとは思いますし、投げ銭などの仕組みにより起こり得るトラブルからユーザーを守る法律上の規制の検討も必要性と共に、メタバース上でのイベントの熱量の可視化というのは、今後の重要な視点であり、課題だと感じます。
森岡:今回の調査では「課金」についても聞いています。特にZ世代の男性の増加は大きい傾向にありました。またメタバース上での課金者比率の全体平均は、前回の約1.7倍となる37.5%。ひとりあたりの課金額平均(年間)も前回の約1.9倍となる4,029円となるなど、メタバース上での消費は増加傾向にあることがわかりました。
池田:この結果から、リアル、メタバース問わず、自分にとって有益であれば課金してもいい、というユーザーのマインドがうかがえますね。もちろん未成年ユーザーが安心・安全に使用できる環境の整備も必要ですが、そのうえで、これはメタバース上のビジネスチャンスが広がっていることを意味しているように思いますし、進出を検討している企業にとっても、いい流れが生まれていると感じます。
メタバースと親和性が高い、アパレル業界
池田:メタバースでの課金や消費という点で注目している領域はありますか。
森岡:コマース周りだと、ファッションやアバター関連でしょうか。アパレル業界の国内の市場規模は7.6兆円と言われており、どんどんデジタルシフトしています。その流れを考えると、メタバースとコマース(アパレル)の親和性は高いと考えます。
金林:実はすでに、リアルなファッションデザイナーがメタバースに進出しています。ファッションデザイナーが手がけるアバターのファッションアイテムは人気を博し、アバター向けのブランドも誕生しています。企業とのコラボレーションも生まれていますし、注目度は高いですよね。
森岡:プラットフォーム上のエリアやステージが違っても、アバターは同じものが使えますから、自分らしさを演出したいユーザーにとっては、ファッションアイテムは必須ですよね。
金林:実際、ユーザーがアバターを購入するきっかけというのは、ユーザー同士のコミュニケーションの延長にあって、初期アバターだと恥ずかしいから、ということもあるようです。メタバースでも他者の目を意識するというのは、人間らしいなと思います。
メタバース活用をご検討されている方へ
池田:いま、現在進行形で、メタバース活用に悩まれている企業の方も多いと思います。アドバイスやメッセージがあれば、お願いします。
小山:ありがたいことに、最近多くの企業の方から、メタバースに関するご相談をいただいています。中長期的には非常に可能性があると思いますが、そのためにはどのようなステップを踏んで、どういったナレッジを蓄積していくかも重要になると思います。
メタバース上でユーザーとのタッチポイントを作りました、だけでは、一瞬のPRバリューはあっても、未来にはつながりづらい。例えば、現状なら若年層のほうが認知も利用意向も高いですから、そこにリーチしたい、コミニュケーションしたい企業にとっては、ブランディング軸としてメタバース活用は非常に有効だと思います。また、グローバルでコミュニケーションを設計されたい企業も活用できると思います。マーケティングの観点からしっかり、ターゲットや蓄積をしていくこをと考えることが大切ですね。また、実装する中においてはメタバース上ならではのUXや3Dの世界観の構築も必要になると思います。電通XRX STUDIOは、グループ横断組織として、80名強の多様な人材と専門性によって、ワンストップでメタバース活用を支援することができます。ぜひ多くの企業の方とご一緒出来たらうれしいです。
金林:メタバース活用を考えるうえで、ファーストステップは、自分自身がメタバースを体験してみることです。実際に自分のアバターを作ってみるくらいは簡単にできますから、まずはメタバースを体感してもらえたらと思います。
体験を通して、ユーザーの気持ちがわかれば、リアルで展開している事業を、メタバースでどう展開すると受け入れられるのかも見えてくるかもしれません。そのための事業拡大のサポートも、電通XRX STUDIOではご提供しています。ぜひお気軽にご相談いただけたらと思います。
池田:メタバースは、新しいソーシャルの場。そこでも重要になることは、リアルと変わらず、良質なユーザー体験を届けることなんですね。
三邊:そうですね。まだまだ課題は多くありますが、成長著しいグローバルのマーケットです。いままさに、世界が変革していく現在において、こうした新しい場が生まれていることを、ポジティブに捉えることが大切だと感じます。海外の企業も、日本の優れたIPやコンテンツはメタバースに活きると、非常に注目しています。電通「XRX STUDIO」として、日本のメタバース市場の拡大に今後も寄与していきたいと思います。
<出演者の詳細プロフィール>
三邊 立彦
株式会社電通 事業共創局 ゼネラルマネージャー。電通入社後、2009年より事業開発セクションに従事し、プラットフォーム開発やヘルスケア事業開発を推進。2018年よりXR領域のビジネス開発に取り組み、2020年に電通グループ6社横断組織「XRXSTUDIO」を立ち上げ、電通グループとしてのXR事業領域の戦略策定と事業計画の推進、ソリューションの体系化などを行っている。
金林 真
株式会社電通 事業共創局XR・メタバース開発部、XRX STUDIO / エクスペリエンス・デザイン・テクノロジスト。XR事業開発及びXRでのトランスフォーメーションを行うグループ横断組織「XRX STUDIO」プロジェクトをプロデュース。メタバース系イベントの主催・運営やプラットフォームシステムの開発を実施。ARは2012年ごろより、VRは2013年ごろより触れているXRネイティブ。趣味はフォトグラメトリー。CANNES LIONS 2013メディア部門等の広告賞を、新聞を用いたARアプリで受賞。
小山 祐樹
株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ チーフ・ディレクター。電通入社後、営業局、経営企画局を経て現在は電通グループのグループR&D組織である「電通イノベーションイニシアティブ(DII)」のチーフ・ディレクターとして、新領域投資や投資先との事業共創をリード。主にXR/メタバース/New Media領域、日本/北米/インド/東南アジアなど国内外のエリアを担当。
森岡 秀輔
株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ マネージャー。新規事業開発の部署に初任配属後、大手飲料ブランドの営業を経てDIIに参加。現在は海外発の有望な先端スタートアップへの投資を含めた日本市場展開及びアクセラレーションを推進。主にイノベーションリサーチ領域とゲーミング/メタバース領域を担当。
池田 心平
株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ シニアマネージャー。電通入社後、プランナーとしてキャンペーンの企画策定やブランドコンサルティング業務を経験した後、営業局にて食品、金融、スタートアップ企業などを担当。その後ITオフィスにて様々な業務支援システムの開発・導入に従事。2022年よりDIIに参加。主な担当領域はXR・メタバースやAPACエリアの事業開発・R&D。
※XRX STUDIOとは、dentsu Japan各社が持つ多様な人材と専門性に加え、先端テクノロジー開発企業と共創し、メタバース領域における顧客企業やパートナー企業とのサービス基盤開発から広告モデルの研究まで、さまざまな取り組みを行う組織です。2021年度に開催された「東京ゲームショウVR」では、東京ゲームショウ初のメタバース基盤システムを提供するなどさまざまなプレイヤーと連携を深めながらソリューションを拡充し、メタバース市場のさらなる創造・拡大に貢献していきます。
関連記事
プレティア・テクノロジーズ対談:電通グループが描く、ARを活用したコミュニケーションの未来とは
21万人が来場した「TOKYO GAME SHOW VR 2021」から考える、メタバースのこれから