dentsu gaming対談:これからゲームに求められる価値とは?

dentsu gaming対談:これからゲームに求められる価値とは?

by 田端 剛治

2020年1月より世界に広がった新型コロナウイルスの影響もあり、人々のゲームへの関与時間は増加し、「Among Us」、「Fall Guys」といった比較的ライトなユーザーでも楽しめるゲームへの注目が高まりました。そのほかにもゲームの中で行われるコンサートや、Robloxをはじめとするゲームプラットフォームの台頭など、今まさにゲームが新たなメディアやプラットフォームとして大きく注目されています。

今回は、 dentsu gamingのリーダーとして新たに参画したBrent Koningに長年ゲームビジネスに関わってきた経験から、ゲーム市場における“変化”について聞きました。

Brent Koning
電通グループ Executive Vice President, Global Gaming Lead。ゲーム・エンターテインメント業界のリーダーとして20年以上経験。チーム構築、戦略的ビジネス・イニシアティブ、マーケティング・プラン、クライアント・ソリューションの構築・提供において豊富な実績を保有

電通グループ参画前は、エレクトリック・アーツ(EA)、Ncompass International、マイクロソフト、ラウンドハウスで、広告、プロダクト・マーケティング、アカウント・マネジメント、パートナーシップなどさまざまな分野のリーダー的役割を担当。EAでは、EA SPORTS FC(旧EA SPORTS FIFA)、Apex Legends、MADDEN NFL (American) Footballからなるグローバルポートフォリオを統括し、eスポーツ戦略の先頭に立ちました。もっとも大きな実績としては、2017年にFIFA Ultimate Team Championship Seriesを立ち上げ、60か国2000万人以上の参加者を集め、大きな成功を収めました。

田端 剛治
株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ  シニア・マネージャー。株式会社電通入社後、スポーツ局を経て、プラットフォームビジネス局、事業共創局にて、主にクライアントのデジタル事業開発を担当。2022年2月より電通イノベーションイニシアティブに参加。現在はXR・メタバース領域での事業開発、及びゲーミング領域の事業開発に従事。

齋藤 賢太郎
株式会社電通 グローバルビジネスセンター ビジネスプランナー・プロデューサー。入社以来グローバルクライアントにおけるブランド戦略やコミュニケーション、アクティベーションなどのマーケティング戦略開発に10年以上従事。ベトナム拠点3年駐在。上記に加え、現在は株式会社電通のソリューションの海外拠点への展開、日本コンテンツの海外展開プロジェクトやゲーミング領域の新規事業開発に従事。

eスポーツでもコミュニティレベルの盛り上げが重要

田端:今回は、ゲームという命題に対して、電通グループ内で連携しているdentsu gamingと電通イノベーションイニシアティブ (以下DII)で、これからのゲーム市場におけるビジネスチャンス、特にユーザー動向やコミュニティの変化について、お話できればと思います。まずは、2022年11月より新しくdentsu gamingに参画したBrentさんは、これまでどのようにゲーム業界に関わってきたのでしょうか。

Brent:ありがとうございます。簡単に私自身のキャリアの紹介させてください。私のキャリアは広告代理店でスタートしました。そこで、様々な企業イベント企画・運営のサポートをしており、偶然マイクロソフトのソーシャルキャンペーンに関わる機会がありました。これが私のゲームビジネスとの出会いです。

市場がちょうどXbox 対 PlayStationで盛り上がっている中で、XboxはFacebookもTwitterもフォロワーが全くいないところからどのようにユーザーを囲い込んでいくのか試行錯誤しており、様々なキャンペーンの実施に関わりました。その中でも、最も記憶に残っているのは、Call of Duty World Championshipの立ち上げです。その時のファンの熱量は、今までに体験したことがない程の熱量だったことを今でも覚えています。

齋藤:それをきっかけにeスポーツに関わってきたということでしょうか?

Brent:おっしゃる通りです。その後縁がありEAに転職しました。EAはFIFA(現EA SPORTS FC)を、よりeスポーツとして盛り上げてきたいというタイミングでした。私は、FIFAのチャンピオンシップの立ち上げや各ローカル大会へのライセンスの提供などやApex Legendsのeスポーツのエコシステム設立に大きく関わることが出来ました。色々なイベントの立ち上げやゲームビジネスに関わる中で感じたことは、ファン心理を丁寧に汲みながらコミュニティを起点とした盛り上げや巻き込みを取り組むことが重要だということです。

通常のスポーツも一緒だと思いますが、eスポーツでもいきなりチャンピオンシップなどの大きな大会を開催しても盛り上がりません。重要なのは、小さな大会から支援して、コミュニティを盛り上げていく事です。有機的にユーザーやコミュニティをつなげていき、熱量を大きくさせていくことが最も重要な成功要因だと感じています。

ゲームにおけるソーシャライズの重要性

田端:私自身もeスポーツのコミュニティ/イベントを運営しているので、コミュニティの重要性は日々実感してます。コミュニティを見ていて、特に最近はユーザーがゲームに求める”価値”の変化に注目しています。従来、日本ではゲームは一人でプレイすることが主流でした。しかし、技術革新やeスポーツの浸透に伴い、そこには”ソーシャライズ”という要素が加わってきたと思います。

例えば、一昨年ぐらいからAmong Us(プレーヤー人口1億人以上の人狼×ゲーム)というゲームが流行しました。これはAAAゲーム(莫大な開発費・マーケティング予算を投じて作れれたゲームを指す)のように、ビジュアルやシステムの開発に莫大なお金をかけているわけではないですが、暇つぶしゲームのクオリティでもありません。しかし、インフルエンサーをはじめ、多くの人がプレイをしたことをきっかけに大人気のゲームタイトルの1つになっています。Among Usが人気になった背景には、最近のユーザーの変化、いわゆるゲームや娯楽に求める価値の変化が関係していると考えています。

Among Us以外にも、アメリカではRoblox(月間アクティブユーザー1億5000万人以上を誇るゲームプラットフォーム、ゲームをプレイできるだけでなく、ユーザー自身がゲームを開発し、ユーザーに提供することが可能)が学校から帰った後に、友達と集合する場所、いわゆる昔の空き地・公園のような場所となっているという話も聞いています。実際にはいかがでしょうか?

Brent:このような大きな価値変化は、スマホの普及や技術革新の影響も大きいと思っています。従来のゲームプレイはコンソールがメインでした。しかし、コンソール(PlayStation、Swichなど)でプレイしたい場合、本体、ソフトそして友達とプレイしたい場合はコントローラーをもう一つ購入する必要があり、かなりの出費がかかるなど、ハードルがすごく高かったです。しかし、スマホの登場によりゲームがプレイ容易になってきています。

アメリカなどでもまだ5G の普及は低いですが、今後さらに普及が進むことで、ゲームのプレイや視聴、そしてゲームの中での体験やコミュニケーションがより注目されていくのだと思います。

「ゲームをする」ということの意味の拡大

田端:Brentさんの言った通り、技術の発展などの影響で「ゲームをする」ということの意味合いが大きく変化してきている気がします。コアゲーマーの学生に対してインタビューをさせていただく機会があったのですが、一日の間にゲームに関連する行動が著しく増えているのが印象的でした。例えば、朝起きてからはゲームをオートプレイ(自身は手を動かさずゲーム内AIにプレイさせる)、通学の間は過去の大会アーカイブを視聴、昼休みの間にTwitterでゲームの新しい情報を収集、帰宅時間に過去のプレイをチェック、帰宅してからは友人と連絡を取り合い、オンラインコミュニティ(Discordなど)に集まりみんなでゲーム、寝る前に配信者のプレイ動画を見ながら睡眠など、ほぼすべての時間帯でゲームに関わっていました。


学生たちと話している中で、これらすべてが、「ゲームをする」という1つの行動として説明してくれていました。今まで、ゲームをする=テレビの前でゲーム機でプレイするということでした。しかし、今はゲームを見る、ゲームについて調べる、ゲームを配信する、大会を見に行く、これらがすべてゲームをするという意味合いになってきています。

今後さらにコアゲーマーが増えていくということはもちろんですが、ライトゲーマーもゲームに入りやすい環境になってきていると感じています。また、今までコアゲーマーとライトゲーマーの間には大きな壁がありましたが、クロスプラットフォーム対応のゲームやYouTube、Twitchなどの配信、Discordのようなツールなどで、ソフト面・ハード面においてもユーザー同士が接点を持ちやすくなってきていると思います。

クロスプラットフォームが作り出す新しい価値

齋藤:田端さんのいうとおりに、スマホユーザーも従来のアプリユーザーというだけでなく、Apex Legendsなどeスポーツゲームを中心に、デバイスを跨いだゲームをプレイしている人も増えています。ソーシャライズを技術的に支える要素として、このデバイスをまたいだクロスプラットフォームが一つ重要なカギになってくると同時に、ゲーム内のコミュニケ―ションや求める価値を大きく変えていくきっかけになると思っています。先日、日本ユーザー向けの調査を実施したのですが、面白いデータがありました。

クロスプラットフォームの多くのゲームは無料プレイのものが多いため、クロスプラットフォームのゲームと聞くと8割以上の人は無料のゲームというところにしか価値を感じていません。しかし、スマホに加えて、PCやコンソールなどの複数デバイスを経験している人は、無料のゲームというだけでなく、プレイヤー同士のコミュニケーションやゲーム全体の盛り上がり、コミュニティ形成などのきっかけになると点に価値を感じています。

まだクロスプラットフォームの価値はコアゲーマーにしか浸透していないですが、今後のゲームビジネスを考える際の大きなヒントになると思っています。

Brent:ビジネス的な側面から言っても、クロスプラットフォームは重要になってくると思います。例えば、AAAゲームやスマホゲームも含めて開発費がどんどん高くなっております。またそれだけでなく、マーケティング費用をかける必要も増しており、ゲームビジネスに参画するハードルがどんどん高まっています。

このような環境で、今後ゲームビジネスに参加していくためには、デバイスに依存しないことやよりユーザーを広がるような仕組みを作っていくことが重要だと思います。例えば、マイクロソフトが、Xbox Game Passとクラウドゲーミングソリューションで、これをリードしているなど、良い例だと思います。

齋藤:ソーシャライズの話でもう一つ印象深いのが、一周回って人が求めているのが、リアルの関係に基づくゲーム体験なのではないかということです。現在メタバースやeスポーツが注目を集めており、オンラインで完結するような関係性というのが広がっていくのではないかという風潮があると思います。しかし、実際には、学生へのインタビュー結果からは、スマホゲームユーザー・コンソールゲームユーザー・PCゲームユーザーどのようなタイプでも学校の友達や兄弟、昔からの知り合いなどをはじめリアルにつながりがある人とゲームプレイを優先する人の多さに驚きました。

もちろんeスポーツゲームをプレイしている人たちは、オンラインコミュニティに属していますが、ゲームをするときには、まずオンラインコミュニティではなく、リアルの友達に声をかけて、予定が合わなさそうな場合に、オンラインのコミュニティでプレイできる人を探すという優先順位でした。

Among USが流行した理由もゲームの面白さも、キャラクターのキャッチ―さもありますが、そこが一つのポイントだったのではないかと思っています。新型コロナウイルスでリアルの関係性が感じづらくなり始めている時に、ゲームをプレイするだけでなく、リアルなコミュニケーションも取れるという要素があったからこそ大きくヒットしたのではないかと思っております。

昔、コンソールのプレイで隣に座って一緒に競いあったり、楽しんだりしていたものを、オンラインでどのように具現化させるのか、それを促進できるゲームやビジネスを考えていきたいと思っております。

Brent:昔はゲームというと、地下室で一人で遊ぶものという誤解がありました。しかし、今はそうではありません。ゲームは国境を越えた活動であり、プレイヤーは世界中の他のプレイヤーと直接つながることができます。そして、そのようなプレイヤーが一緒にプレイしているのを、また世界中の人が一緒に視聴しているのです。TwitchやYouTubeのウォッチパーティーは着実に増えており、今やeスポーツやゲームストリーミングのコア視聴者の大きな部分を占めています。その中でも重要なのは、おっしゃる通りリアルな関係性だと思っています。

だからこそブランドやパブリッシャーにとって理解しなければいけないのは、このような変化が起きている中でゲーマーはリアルにつながること、リアルな価値を提供できることが重要になっていきます。ただ広告を表示するのではなく、eスポーツの大会中やゲームの一部をブランドが担っている様子を示し、価値を提供することこそがコミュニケーションにおいて重要になってきています。

例えば運送会社であるDHLは、様々なeスポーツトーナメントにおいて、スポンサーをしています。しかし、スポンサーというだけでなく、イベントに関連したロジスティクスも担っています。このようにただスポンサーとしてのつながりだけではなく、ゲームのエコシステムをサポートしているのを実感することでeスポーツのファンは、DHLブランドとのつながりをより強められると考えています。このように企業もゲーマーとどのような関係性を築いていけるのかが重要になってきています。

ゲームを舞台にした新たなビジネス・タイトルへの挑戦

田端:最後にdentsu gamingが目指していく今後のビジネスに関してお聞かせください。

Brent:dentsu gamingとしては大きく3つの柱を軸に今後活動していこうと思っています。1つ目は、「East meets West」です。電通は日本において広告領域やゲーム領域において様々な実績を積んでいます。一方、グループとして今多くのグローバルクライアントと一緒にお仕事をしています。今後、ゲームの領域において日本での実績をグローバルクライアントに提供することを目指しています。

2つ目は、クライアントのゲーム領域の進出の支援することです。ゲームは新しい領域ですが、その領域においてどのようにブランドが最善のコミュニケーションができるのか、より本物の形で支援していきたいと思っております。

3つ目はゲームエコシステムとマーケティングの統合を目指し、IPやパートナーへの投資です。

この3つを軸に活動することで、クライアント向けのソリューションをはじめとして様々なサービスとして提供していければと思っております。

田端:ありがとうございます。DIIとしてもお話をしてきたようなコミュニティやゲームの中で関係性、ソーシャライズを促進できるようなソリューションやそれを軸にブランドがコミュニケーションに活用できるような仕組みなどに取り組んでいきたいと思っております。

また、中長期的な視点として、このようなゲームに対する新しい価値にこたえられるようなタイトルの開発や投資などにも挑戦していきたいと思っています。その時には、日本市場だけでなく、グローバルの視点も欠かせないので、ぜひ今後Brentをはじめ、dentsu gamingのみなさんと協業していくことで、ゲーム領域を起点とした、社会への価値提供を目指したいと思います。

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