*本記事は連載記事「Web3.0 Journey!」の第12回目です
こんにちは!
今回の記事、トークンエコノミーの実証実験については、実は今年の2月に執筆していました。
しかし公開が今となった理由は、「場」の変更を余儀なくされたりと、実証実験を実現するための奮闘物語があったからです。
今回挑戦しようとしているのは、Mobility as a Service(MaaS)とトークンエコノミーを掛け合わせた実証実験。
交通サービスを一つのプラットフォーム上で統合し、利用者が必要な交通手段を効率的に利用できるようにする新しいコンセプトです。MaaSは、公共交通機関、シェアリングエコノミー、自転車シェアリング、ライドシェア、レンタカーなど、さまざまな交通手段をシームレスに組み合わせ、スマートフォンアプリなどを通じて一括して利用・支払いを行うことができます。
トークンエコノミー
デジタルトークンを活用した経済システムのこと。このシステムでは、ブロックチェーン技術を基盤としてデジタルトークン(NFTなど、ブロックチェーン上で発行・管理される電子的な印、通貨やサービスアクセスなど特定の価値を表す)を発行・管理し、トークンを介して価値の交換、報酬の付与、サービスの利用などが行われます。
地域エコノミーの概念をトークンエコノミーに適用し、デジタルトークンを介した経済システムを作る第一歩になります。
そのため、実証実験を行うには地域の方々の理解が必要であり、その理解があった上でようやくスタート地点に立てるわけです。
今回の話題も「今すぐに」私たちの生活を変えるわけではなく、また、既存の生活にすぐに取り入れられるものでもありません。
私はDIIさんの取り組みを通じてWeb3が社会実装されていく過程、様々なアプローチからの実証実験を見ており、プロジェクト関係者から直接話を伺う機会もあるのですが、彼らはいつも「10年先の未来」を見据えて行動を起こしています。
誰一人として自分のために行動している方はいません。
いつも他者や社会、そして次世代の子供たちのためにどうすれば生きやすい世の中になるかを常に考えている方たちばかりなのです。
なので、今後私たちの生活に影響を与えるであろう内容だということを念頭に置いて読み進めて頂ければと思います。
この実証実験を始めるにあたり、発案者が現地で奮闘している様子も見てきましたので、その新しい挑戦を読者のみなさんにお伝えしたいと思います。
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デジタルトークンで支える地方の未来
地域エコノミーとは、ある地域内での経済活動や価値の交換を指します。
それをトークンエコノミーに適用するというのは、その地域内での経済活動をデジタルトークンを使って行うシステムを構築するということです。
このプロジェクトは、単に新しい経済システムを構築するだけでなく、地方都市が直面している深刻な課題への対策としても期待されるものだと思っています。
というのも今、私たちの国、特に地方都市では人口の減少と高齢化、経済の衰退、そして公共サービスの維持が大きな問題となっています。
私自身フランスから帰国後の2年間、地方都市で生活するという経験をしました。
そこでは日々、交通機関の不便さや高齢者が直面するさまざまな課題を目の当たりにしました。
例えば、公共のバスが1時間に1本しかないとか、最寄りのスーパーまで車がないと買い物に行けないといった事態です。
こうした状況は、特に高齢になり免許を返上した後の生活を考えると、なおさら深刻です。
そういった課題とトークンエコノミーをどのように掛け合わせて実空間で活用するのか、「高齢者が病院を訪れる」という視点から実証実験の内容をお伝えしていきたいと思います。
高齢者が病院を訪れる際の交通手段として、電車やバスなどの公共交通機関や自動車が考えられます。
地方都市では、病院がバスの停留所に隣接していることが多いため、車がなくてもアクセス可能です。
しかし、現実には、家族が送迎したり、同伴してもらうことの方が多いのではないでしょうか。
実は、この「送迎をしてもらう」「同伴してもらう」という行為は、本人の意志に関係なく相手の時間を取ることになります。
つまり、望まずしてテイカー(受け手)になってしまうのです。
診療の度に送迎を頼むことは、毎回「申し訳ない」といった気持ちを抱かせるかもしれません。
頼める家族がいれば良いですが、もし独居の高齢者だったらどうでしょうか?
タクシーを利用することも可能ですが、それが毎回となると経済的に厳しい方も多いでしょう。
かといって、気軽に他者に頼めるわけでもありません。
しかし、もし送迎や同伴に対して「お礼」を渡せるシステムがあれば、テイカー側からギバー(与え手)側に変わり、手助けが必要な時に負い目なく他者に相談できるかもしれません。
今回の実証実験は、まさに相手に何かを提供する行為そのものなのです。
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「ありがとう」のトークン
今回行う実証実験に協力して頂けるのは、三重県志摩市にある志摩市民病院です。
地方創生の取り組みにも力を入れられているため、新しい挑戦にも積極的に関与してくれる頼もしいパートナーです。
病院では、外来診療だけでなく訪問診療も行われており、通年で大学生や高校生の研修生が実践を通じて学んでいます。
その結果、高齢者と若者の間には自然な交流が生まれ、世代間のつながりが形成されています。
このような環境下において、今回の実証実験では、患者さん側が「ありがとう」のトークンを発行し、支援側との対等な関係を築く試みに挑戦します。
受け取る支援者:病院へ連れてきてくれた親族や友人・知人など。外来診療・訪問診療してくれた医療従事者。
「ありがとう」のトークンは、支援を受けた側が感謝の気持ちを形として表す試みです。
現在、地元のタクシー会社と交渉中ですが、このトークンを利用すると無料でタクシーに乗車することが可能になるのです。
しかも、実証実験ということで、利用金額の上限は現段階では設けられていません。#驚いた
当初はバスでの実証実験も試みていたのですが、地元のバス会社との相談で、多くの利用者が定期券を持っていることが判明しました。
それならトークンを使うよりも定期券を使うよね…ということになり、より実用的な選択としてタクシー利用での実証実験を進める運びとなっています。
そして、タクシー利用が可能となるトークンの発行から付与・取得には、SONYが開発したICカード型ハードウェアウォレットを利用します。
この技術は、写真で示された「落合陽一サマースクール」の卒業証明書付与の際にも使用されました。
スマートフォンの下にかざされているのが、そのICカード型ハードウェアウォレットです。
このウォレットを使用することで、高齢者から若年層まで誰でも簡単にデジタルトークンを利用することが可能になります。
運転手による乗車中の携帯電話の使用は禁止されていますが、ICカード型ハードウェアウォレットを使用することで、タクシー側でもシステムの導入が簡単になります。
さらに、ここで理解しておきたい新しい技術があります。
一つは乗車時にトークン認証を確認する「トークンオースペアリング」という技術、もう一つは重要な役割を果たす「メタトランザクション」という概念です。
Bluetoothのように、ワイヤレス技術を利用して二つのデバイスを安全に通信できるように接続し、利用者のICカード型ハードウェアウォレットとタクシーの支払いシステムが互いに通信を確立し、トークンに基づくサービス利用のための情報交換を行います。この技術により、接触なしでの認証や支払いがスムーズに、かつ迅速に行われます。
メタトランザクション
ユーザーがガス料金(手数料)を支払う必要なくブロックチェーン上でトランザクション(取引)を行える技術です。この技術では、別のパーティが料金を負担し、ユーザーはトランザクションの署名のみを行います。
メタトランザクションを利用することで、トランザクション(取引・処理)費用を第三者が負担する仕組みが実現し、利用者はデジタルトークンを利用したサービスをより手軽に利用できるようになります。
例えば、患者さんの送り迎えや診療などで他者に貢献し、獲得したトークンを使ってタクシーに乗る場合、利用者は手数料の支払いを心配する必要がありません。
他者への貢献がデジタルトークンとして評価され、そのトークンを使って、日常生活に必要なサービスを(今回の実証実験では)無料で利用できるようになるのです。
これにより、これまで支援を受ける側であった患者さんも、支援者に何かを提供できるようになります。
つまり、彼らも「ギブ」することが可能になるのです。
この話を聞いた時、ちょっとひねくれたところがある私は疑問に思いました。
「上限を決めずに無制限で発行できたら、支援や貢献をせずに、例えばお孫さんが、 『◯◯行きたいからトークンちょうだい』ということが起きないですか?」と。
すると返ってきた言葉は、
「それでも良いと思うんです。きっと今までのお礼みたいなところもあるじゃないですか。今までの気持ちを渡すという。そういった行為があっても良いと思うんですよね。」
恥ずかしい…
確かに、「◯◯をやったからギブする」というよりは、これまでの貢献を踏まえてトークンを発行することで、発行者は感謝の気持ちを伝えることができ、必要なときには負い目なく相談ができるようになりますよね。
それにトークンを取得した側も、全てを自分で使い切れるとは限りません。
その場合は他者に譲渡することもできますし、自分の行った行為や他者への貢献が「ありがとう」のトークンとして返ってくることで、実際に物理的に活用することができます。
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無形の貢献を形に:デジタルトークンと地域活動の未来
この実証実験が示すのは、トークン化により、これまで金銭的な価値が見出せなかった行為や貢献が新しい形で評価され始めるということです。
例えば、地域の清掃活動に参加しても、その貢献を「実空間で活用する」ことはこれまでできませんでした。
私が以前住んでいた地方都市では、資源ゴミの収集が月に1度であり、それを近くの公民館に持ち込んで分別していました。
だいたい朝の6時〜8時と早い時間で、そこで分別の指示や受け取りの対応をしてくださるのは地域住民の方なのです。(その後業者が収集する)
そこで毎回行く度にいらっしゃる方がいて、どう考えてもその対応から業者の方ではないんですね。
そしてその方に私はよく助けられられていたんです。
「このゴミはここじゃなくて燃えるゴミの日で出せるね」とか、「これは直接電気屋さんに持って行くだね」とか。
この方こそまさに地域に対して貢献しているじゃないですか。
けれど、これまではその行為がボランティアとしてのみ評価されていました。
しかし、もしこの方の貢献がご自身の生活で利用できるものに変わるなら、それは私にとっても、そして地域にとっても嬉しいことです。
こういった地域への貢献や人の善意がデジタルトークンとして可視化され、実空間で利用できるようになると、地域コミュニティの結束を強化し、持続可能な地域経済の発展を促進することが可能になってきます。
さらに、若者がテクノロジーを使って高齢者の生活をサポートする活動に、トークンを介して報酬を得られるような仕組みを作ることで、世代間の交流が促進され、地域コミュニティの絆も深めることができるでしょう。
このプロジェクトが地域社会にどのような変化をもたらすか、その可能性に私は期待しています。
*
最後に
今回同席した打ち合わせの中で、いくつか心に響く言葉がありました。
・コスパ、タイパで物事を考えるのはWeb3の概念と矛盾している
・「儲けるためにやる」という姿勢は、地域貢献にならない
・次の若い世代の未来がつながるように、時間軸を意識して貢献を捉える「未来型の貢献」「順送りの貢献の精神」
Web3の精神には、たた儲けるためではなく、私たち一人ひとりの小さな行動や貢献が積み重なって未来に価値を残していくという考えが根底にあります。
地方都市で始まるこの実証実験が、そういった未来につながる第一歩であることを私はとても楽しみにしています。
そしてこの実証実験は今まさに動き出したところなので、第2話、第3話と、その進展をリアルタイムでシェアしていきたいと思います。
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