Web3.0 Journey! Episode 12 : 落合陽一 サマースクール 2024 - 福岡・糸島編 -(前編)

Web3.0 Journey! Episode 12 : 落合陽一 サマースクール 2024 - 福岡・糸島編 -(前編)

by 草生 慶子

*本記事は連載記事「Web3.0 Journey!」の第12回目です



こんにちは!

今年も参加してきました、「落合陽一 サマースクール 2024 」。

3日間の濃密なカリキュラムを終え、受け取った情報量の多さに終わってからしばらくは放心状態〜学んだことを咀嚼するのに数日かかりました。

今回のサマースクールの目的は、AIなどの最先端の技術を学ぶのはもちろんのこと、作品創作を通して、

「他の人と違う感性を持っていることに気づいて帰ってもらう」こと。

そして、

「なんで◯◯なんだろう?」

と、物事に対しての好奇心を持つ力を育むことも目的としています。

”これはできるだろうか?(できるからやる)”

”既に誰かがやっているからやろう(結果が出ているから失敗しない)”

大人になるにつれ、いつの間にかこのような思考や枠の中で物事を考えてしまうことがあります。

しかしこのサマースクールではカリキュラムを通じて、ただ知識を学ぶだけでなく、その知識をどう活用し、新たな価値を創造できるかを「自分自身で考える」ということを学ぶ場でもあります。

このような学びの本質を、毎年授業が始まる前に主催者の方が話してくれるのですが、私はその話を聞くのが好きでですね。

この話を聞けるだけでもとても価値のある時間だなと参加する度に思っています。

今回も大変多くの学びや体験、気づきがあったので、その情報をみなさんにシェアしたいと思います。


落合陽一サマースクール とは?

科学とテクノロジーを組み合わせた未来を形作ることを目指して、伝統的な知識と最先端技術の融合について議論し、若い世代に科学の面白さや重要性を伝えるアウトリーチ活動です。

このイニシアティブは、落合陽一氏(筑波大学准教授)によって主宰され、多様な分野の専門家が講師として参加し、若者たちが科学と技術の実践的な学びを深めることができるプログラムを提供しています。

詳細についてはこちらのTable Unstableウェブサイトをご覧ください。

最先端の技術を学ぶ


今回の学びのテーマは「3DGSとAIによる映像制作と地理空間NFT」。

3DGSとは、3D Gaussian Splatting(3Dガウシアン・スプラッティング)の略で、3D空間内の各データ点を、小さなぼんやりとした雲のような形(ガウシアン)で描き、それらが重なり合うことで、より立体的で滑らかな画像を作り出す技術です。

以下の画像は糸島市の製塩所を訪れた際、置いてあったオブジェをカメラでスキャンし、3DGSの技術を使って3Dにしたものです。







カメラを向けてオブジェの周りを一周しただけで、一瞬にしてとてもリアルな3D画像が出来上がりました。

対象はオブジェだけでなく、人物もスキャンすると3Dデータにすることができます。

この技術をなぜ学び、何に活用したのかは実際の経験を元に後編の記事で説明したいと思います。


初日の座学では、映像制作に必要なAIの使い方を学ぶ前に、落合さんからの講義がありました。







特に印象的だったのは、寺田寅彦のエッセイ『科学者とあたま』や『化け物の進化』からの引用を用いたセッションです。


「『科学者になるには”あたま”がよくなくてはいけない』これは普通世人の口にする一つの命題である。これはある意味ではほんとうだと思われる。しかし、一方でまた『科学者はあたまが悪くなくてはいけない』という命題も、ある意味ではやはりほんとうである』

-寺田寅彦のエッセイ『科学者とあたま』より引用-


「科学者になるには『あたま』がよくなくてはいけない」というのは一般的に受け入れられている考えです。

けれど、「一方でまた『科学者はあたまが悪くなくてはいけない』」っていうのはどういうことだろうね?

なんであたまが悪くないといけないんだろうね?


このような問いかけが他の引用を用いても5つほど行われ、それぞれの問いに対してみんなで考える時間が設けられました。

このエッセイの文章は、正直なところ、文学に精通していない大人にとっても難解です。

それを子供たちはどう理解していくのだろう?と思っていたら、(参加者は小学生〜高校生です)

「引用文の中でわからない言葉があれば、AIに聞いてみよう!」

という落合さんからのアドバイスがありました。



そうか!
こういう時もAIの力を借りれば良いのか!








そして、わからない言葉をAIに問いながら、著者の意図を理解し始めました。

最初はAIに質問して答えを聞くだけでしたが、徐々に自分たちで考え、それぞれの意見として発表するようになったんです。

「これからはAIで学習するようになる」とよく耳にしていましたが、実際にどのような過程で学習するのか、私にはなかなか想像がついていませんでした。

けれど、このプロセスを経験したことで、AIを使っての学習法や、AIを活用することは、情報をただ知る・覚えるだけでなく、それをもとに自分の考えを形にすることが大事だということを学びました。

こういった進化するテクノロジーとの向き合い方をも学べるのがこのサマースクールの特徴でもあると思います。


そして、映像制作で実際に活用するAIの学習に移りました。

今回学んだのは以下の生成AIです。

・テキスト生成AI : Claude
・動画生成AI : Luma Dream Machine, Runway
・音楽生成AI : Suno


昨年もテキスト生成AIと動画生成AIを使って映像作品を作りましたが、今回は音楽生成AIでの表現が加わりました。

授業が始まる前に落合さんが行きの飛行機の中で作ったという、参考の映像(曲付き)を見せてくれました。

「ChatGPTの気持ちになって聞いてみてね」

という、ChatGPTをテーマに創作されたもので、そのクオリティに驚きました。

そしてChatGPTの気持ちになって聞いてみると、ちょっと涙ぐんでしまい、さすがにこのような場で涙するのは恥ずかしいのでグッと堪えましたが、それくらいAIが作った歌詞・曲、とは思えない、感情が引き込まれるような表現がなされていたんです。

この映像を最初に見せてもらったおかげで、生徒たちは自分たちが何をするのかをはっきりと理解できました。


そしてこのサマースクールの教え方が独特だなと思うのが、作品作りの過程で、まず最初にテキスト生成AIを使って自分自分についてインタビューをしてもらうんです。

「自分はこういう人間だ」というのをAIに理解してもらった上で、作品のテーマを模索していく。

もちろん表現したい作品が明確になっていれば、それに突き進めば良いですが、生徒さんは小学生〜高校生までと年齢層が幅広く、創作活動を初めてする方も少なからずいます。

何から手をつけて良いのかわからなくても、どのようにテーマを決め、創作していくか、その過程や思考についてもアーティストである落合さんから直接学ぶことができるというのはとても貴重な経験です。


さらにこのサマースクールだから学べる、とても価値のあることがあります。

それは、落合さんのプロンプトを見れること。

AIを使っていると、「コミュニケーション」の重要性をひしひしと感じます。

・自分の考えを言語化して伝える力
・観察する力(このAIは何が得意かとか)

そして1番の要は、どれだけ相手(AI)に伝わる、相手が動ける「言葉を知っている」か。

これもうラポールだよな…と、そんなことをAIに触れながら思っていました。


ラポール
人々の間で信頼と相互理解を築くための関係やつながりを指します。人と人との間に良いラポールがある場合、より効果的にコミュニケーションが行われ、相手との信頼関係が深まります。


その1番の要である「どれだけ相手(AI)に伝わる、相手が動ける『言葉を知っている』か」が、落合さんは圧倒的でした。

例えばYoutubeを開けば、AIの使い方を学べる動画は沢山ありますが、どれも似たような解説という印象を私は受けています。

なので出来上がるものも似たようなものになる。

けれど、昨年も感じたのですが、最後のプレゼンの際に落合さんが見せてくれる作品は、明らかにタッチが違うんです。

同じ生成AIを使っているのに、どうしてこんなに違いが出るのかと考えた時、やはり大切なのは、自分のイメージを具体的に表現するための言葉をどれだけAIに伝えられるかだと思うんですよね。

そして単に伝えるだけではなく、AIが得意とする形で情報を伝える。

「Runwayはこうやってプロンプト入力した方が得意だよ」


と言って、落合さんがその場で実演してくれたことがまさにだと思います。

AIに対してただ指示を出すだけでなく、その特性をきちんと観察し、理解した上でコミュニケーションをとること。

これが、AIを使って自分の表現したいことを実現する上で本当に重要な点だということを、この体験を通じて再認識しました。


そして作品制作に入る前に、今回使うAIでどんなことができるのか実際に試してみる時間がありました。

AIの力を借りると、自分では思いつかないようなアイディアや言葉が生まれ、「こんなに簡単に高品質なものが作れるのか!」と、誰でもクリエイターになれることを実感しました。

以下の動画は、ある生徒さんが授業内で初めて音楽生成AI「Suno」を使った時に作った曲で、サマースクール終了後にその楽曲を元に自宅で制作されたPVです。

https://youtu.be/7ra0adt_ZGc?si=qhv-ijpOZsi0T84H

歌詞はテキスト生成AI : Claudeに指示して出来上がったもので、動画生成には、Luma Dream Machineを使用しています。

AIの使い方を習うというより ”作りたいな” って思えるようにする。

この言葉は昨年のサマースククールで主催者の方が伝えてくれたものです。

まさにその言葉通り、生徒さんたちはサマースクールで学んだ技術を活かし、その後も自身の創作活動を始めています。


このように、初日の座学では新しい技術を学ぶだけでなく、それをどう活用するかを理解し、「何を作るか」だけでなく、「どう創るか」という考え方を教えてもらったことで、私たちは創作力が身についたと思います。


2日目の朝は毎年恒例のラジオ体操から始まりました。

昨年に引き続き、ラジオ体操の先生をしてくれたのは、このサマースクールの卒業生です。






そしてその後は、糸島市にある「伊都国歴史博物館」「牡蠣殻の処分場」「またいちの塩 製塩所:工房とったん」を訪れました。

糸島はSDGs未来都市として選出されていることもあり、初日の座学では牡蠣殻処理など地元の持続可能な取り組みについても学びました。

生徒たちはSDGsが掲げる目標から、それぞれ関心を持つ課題をピックアップし、自分たちの地域や世界で直面する課題に対してどのように貢献できるかを考えるという経験をしました。

お恥ずかしい話ですが、私が子供の頃は社会貢献について考えたことはありませんでした。

しかしこの場にいる子供たちは、理解しているかしていないかは置いといて、すでに社会貢献が話題に出るような環境にいるのです。

彼らの姿を見て、どんな環境・場に身を置くかが私たちの考え方や行動に大きな影響を与えることを感じています。

特に大人はその「場」を自分で選ぶことができるので、良い場・環境に身を置けるよう、自ら移動していきたいものです。






移動のバスの中では落合さんによるDJタイムが始まります。

彼が自分のことを紹介する時に「光とか音とかコンピュータが好きです」という台詞があるのですが、初めて落合さんに会った時、どんな場所でも手持ちのスピーカーから音を流していたんですね。

その姿を見た時、「音が好きって言ってたけど、ほんとなんだ…」と思ったんです。

自分の「好き」に常に触れていることに驚きました。

「自分の好きなことを仕事にしよう」という言葉を耳にすることがありますが、彼の姿を見ていると、好き=当たり前、生活の一部になっているのだなと。

そのくらい自分の好きを表現していいんだということ。

本当に校長先生(落合さん)からは学ぶことが多いサマースクールであります。


開催地の魅力を知る校外学習から戻ると、早速今回のテーマであるAIを活用した映像作品制作に取り掛かりました。

初日に学んだAIの技術を駆使して、TA (Teaching Assistant) の先生たちの手を借りながら、自分たちが表現したいものを作り上げていきます。






使うAIの言語は主に英語です。

しかし、テキスト生成AIの力を借りると、英語に翻訳してもらうことも可能なので、使い手が小学生であっても問題ありません。

そして映像制作の過程の中で印象的だったことがあります。

私の隣の席の生徒さんは小学生で、PCのローマ字打ちをまだ知らなかったんですね。

ローマ字打ちは今の自分にとって当たり前になっていますが、考えてみると私も成長していく過程でその方法を覚えたんですよね。

そのため、ひらがな打ちができるようにTAさんが設定を変更してくれたり、様々なサポートがある中で自分が表現したいものを創り上げていったわけですが、彼にとってはこの環境に入ったことで、初めて「ローマ字打ち」というものを知ったと思います。

もしかするとこれをきっかけに自宅でローマ字打ちの練習を始めるかもしれません。

これは子供・大人に限らず、こうして新しい環境に飛び込むことで、今までの自分の現状内では経験したことのないことに挑戦し、成長していくのだろうなというのを感じた出来事でした。


私はというと毎年作品を作り終えるのがギリギリになってしまい、スタッフの方には申し訳ない気持ちでいっぱいなのですが、

「間に合うの?」
「できるよ!」
「しゃべってないでちゃんとやって」(間に合うか心配してくれた)

と、同じグループの生徒さんが声をかけてくれたりして、年齢関係なく同じ生徒という立場でフラットな関係性を築くことができるのもこの場の魅力だと思います。


そして出来上がった作品は「Infinite Objects」に入り、NFTとして製品化されました。






さらに、今年はあるサプライズがありました。

サマースクールで生徒たちが制作した作品を、フランスのヴァルドワーズ県が実際に購入してくれることになったんです。

このニュースは、生徒たちが創り出したアート作品が国際的な舞台で評価され、子供であっても立派なアーティストとして認められることを意味しています。

購入された作品はヴァルドワーズ県の公共の場に展示される予定で、彼らの才能が広く社会に認識されるきっかけにもなります。

このように、私たちの想像を超えるような経験を提供してくれるこのサマースクールはただの学びの場ではありません。

その場に参加できることに心から感謝しています。


そして今年も作品制作〜最後のプレゼンテーションまでみんなで無事に終えることができました。








プレゼンテーションが終わったあとは、卒業証明書のNFTが付与され、今年もソニーが開発したICカード型ハードウェアウォレットと、「unWallet」のコントラクトウォレットで受け取りました。






以下の写真は私のunWalletの画面です。






卒業証明書のNFTの他、制作した映像作品のNFT(グリーンのアイコン)も入っています。

この映像作品のNFTをクリックすると、作った映像と音楽が流れるのですが、これには感動しました。

自分たちが作り上げたもの、経験したことが、このような形になって残るというのはとても嬉しいものですね。

そして卒業証明書のNFTは、ブロックチェーン上のスマートコントラクトに記載された特定の権利を持っています。


スマートコントラクト
ブロックチェーン技術を利用して自動的に実行される契約です。プログラムされた条件が満たされた時、契約は自動的に行われます。これにより、第三者の介入なしに取引が保証され、透明性と効率が向上します。


それには、サマースクールで学んだ経験を形に残し、未来へと価値を持続させる力があります。

卒業証明書のNFTの具体的な権利としては、次の通りです:

・落合先生の門下生としての身分を証明
・次回以降のサマースクールへの参加権(参加年齢制限の解除)
・サマースクールへの招待権
・就学・就業支援サービスを受けられる権利
・同窓会への参加権(12才以上)
・Table UnstableDAO合同会社の一員であることを証明する権利
・Table UnstTableDAO合同会社のガバナンストークンとしての機能

取得したNFTによって、卒業証明や作品自体がデジタル資産として認識され、実際に利用可能な形で保持されているのです。

受講した期間だけでその関係性が終わるのではなく、このようにデジタルで証明された経験・価値が未来に持続していく学びの場はというのは、まだ世の中にほとんどありません。

学んだ技術や価値観が彼らのキャリア形成に役立ち、新たな可能性を広げていくのだと思います。

次回の後編では、作成した映像作品のNFTを地理空間に配置し、その追体験について技術的な観点と実際の経験を踏まえて、読者の皆さんにわかりやすくお伝えしたいと思います。







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